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揺らぐ視界、酷い頭痛。幼い頃からの不眠症が未だ癒えぬ少年の昼間を、意図せぬ眠気が蝕んで行っていた。寝る為には睡眠薬を必要とするが、それも長らく、この目の前にいる漆黒の人物を探し出す為に服用せず、朝から次の朝まで調べ物に打ち込んだ。この人物を見つけ出すためなのならば、少年にとって睡眠はなんの価値もなく、整った食事を調達する時間さえ惜しかったのである。
その少年の風変わりな様子を不可思議な物音で振り返り、洞察した金色の目の女は、その琥珀のような燐光に恰も心配の色合いを織り交ぜて、今度は少年に歩み寄った。
「あら…大丈夫?さっきよりも顔色があんまり良くないわね。それに酷いクマ。食事はバランスよく摂ってる? 睡眠薬はしっかり飲んで寝てるかしら、ダメじゃない自分の生活は確り管理しなきゃ」
「うるさい! 俺に近寄るなって言ってるだろ! お前のようなクソみたいな女に心配される義理はない!そもそもなんでこのタイミングで帰ってくる…! …いつも、いつも邪魔ばかりしやがっ───」
途端、少年の細々とした体が後方に傾き、その黒色の目玉と赤い目玉が天井を向いた。
咄嗟に倒れかけた身体を、悠長にテーブルに背を預けていた筈の恩人が、七年前と同じ様に支えた。力の抜けた少年の低体重の身体が、冷たい義手の上へ、砂を詰めた人形のように垂れ下がった。ついさっき迄、睡眠不足による頭痛や、融通の効かない状況に顰められていた顔が、ただの少年の未成熟な様に変貌している。平和な家庭に生まれ、戦争を知らず、明日友人に話すことと、授業の事を考えて眠りにつく、普通の少年のように。
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作者名:ワッさん | 作者ホームページ:http://img.u.nosv.org/user/0301enmakun
作成日時:2021年4月10日 17時