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「この野蛮なご時世のせいで、他の人間が自分が集団の中でしか生きられない事をすっかり忘れているだけさ。元来ヒトという動物は、爪もなく牙もないが為に、発達した知能を使い、集団で身を守るのが精々の生き物だからね。銃機器や金や権力は時々、僕たちの自尊心を膨張させ、そして思い上がらせ、一個体である自らの弱さを忘れさせる。それがクズをクズたらしめ、戦争を戦争たらしめる…。とくに、現代の“お上”に君臨する人間たちは皆そうだ、アイツらは特別、自分ら以下の一般市民を全員武器だと思ってる」そこで隣人は、思い立った様に右手に握られていた包装シートに入りの複数の錠剤と、白いビニル袋を、清潔なベットの上に座る少年の膝上に投げつけて、「吐け」と、たった一言言い放った。
その時、まるで隣人の言葉に誘導されたかのように、酷い吐気が少年の背筋と喉元に襲いかかった。胃から、器官へ、器官から喉へ。枯れかけた嗚咽が少年のか細い喉を焼いてゆく──────。
「ふむ、良かったな、特効薬が正常に作用している証拠だ。其の儘身体の不快物と血中の毒素を出し切って、それから飯を食って一日寝れば、元の正常な生活に戻れるまでに回復するだろう。あの状態になって僕の目の前に現れたのは、まさに不幸中の幸いだったな。…もし、二日前に僕に出会っていなければ、君は煉瓦の通りの上で這いつくばって、何処の誰にも手を差し伸べられること無く、悶え死んでいたところだろうさ」
こんなにも無遠慮に、縁起でもない話を聞かされた大抵の子供は、背中に冷水を掛けられたようにぞっとして肩を縮めるのが落ちのはずだったが、胃液をあるべき場所から全て出し切った少年は、口内に残る酸を噛み締めながら、窪んだ片目で黒髪の人物を正に素知らぬ顔で見上げた。その黒水晶の瞳が冷徹にこちらを見下ろしている。それから数秒の時を置いて、少年と同じ目線まで屈むと、
「君の名前はハイル・ヴェグラーベンだ。違いないね？」
というように、全くの無表情で、何もそんなことはあまり前だとでも言いたげに確認を求めてきた。
「なぜ俺の名前をご存知なんですか。個人情報は、当人に寄るアンロックシステムによって厳重に管理保管されているはずです…。他者のアクセスは例え親族によるものであっても不可能なはずなのに……あなたは一体…」
「煩い、それは餓鬼の君にもわかりやすいように後で順を追って説明してやるから、質問に答えろよ礼儀知らずめ」
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作者名：ワッさん | 作者ホームページ：http://img.u.nosv.org/user/0301enmakun
作成日時：2021年4月10日 17時
