ADAPTER <ｱﾀﾞﾌﾟﾀｰ> (ページ14)

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気だるげに言い放った後、少年が「Yes」と言って口を閉じたのを見計らい、赤い手袋に覆われた右手の人差し指を立てると、顔色ひとつ変えずに続けた。

「ハイル・ヴェグラーベン、君が飲んだ薬は『DW-13』、別名『悪魔の囁き』と呼ばれる強力な幻覚薬のサンプル品だ。君の現在の父親であるあの肥満男は、ここ一帯の地域の麻薬密売における中心人物と言っていい。最も、その薬は、改良したものを誰か他の麻薬中毒者に試す筈が、君が思わぬ被検体になってしまっワケだが。一見するまでもなく、必要以上にトんだ君を見た事だし、恐らく残りは本部に送り返されて其の儘廃棄と言ったところだろう。あれではまるで商品にならない」

ベッド横に備え付けられた白い木製の丸椅子に腰を掛けつつ、当人は言った。

「ではハイル・ヴェグラーベン少年。先ず、何故僕が君のフルネームを知っていたかを教えよう。まァ最も、僕が君の事について知ったのは名前だけじゃない。君の出身地、生い立ち、年齢、在住地、家族の名前。それら多くのディテールを頭の中に入れているそれは何故か。単純に政府と、個人の管理下に置かれている君の自己閲覧用データを見させてもらっただけさ。その中でも個人の生い立ちなんて言うのは事細かに乗っている。当人が何かしらの行動を起こし転機を経る度に自動的に書き加えられ、職の選択や資格の取得等に併用される記録データさ。そう詰まりは、君やその総ての人間が思っているように、閲覧用データは最新型の“デジタル立体アンロックネットワークシステム”によって、厳格に保管されなければならない。が、残念ながらね、このシステムは著しく未完成なんだよ、少年。僕達がAIという自らの子供に与えてしまった役割には、大きな穴がある…」

　それが何か分かるか、と聞かれ、少年は俯いた。返答を数秒も待つことなく、均衡を持った美貌を携えたその人物は続ける。

「当事者の意志を読み取ることが出来ないことさ。もっと言えば、出来ないようにしている。だから彼等は、僕のような人間が不正に他人の閲覧用データに干渉しても見過ごす様になっている。アンドロイドに個人情報を一任する代わりに、反逆の可能性をゼロパーセントに近付け、AI達に、自らの任された作業だけを淡々とさせるようにね。プログラミングを担当した老いぼれ共は、進化し最良化してゆく、圧倒的な力を持ったAIによる、人類の破滅を恐れた」

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