氷晶。【織田作之助】 (ページ10)

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純粋である少女 2 ページ10

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結局は、子供達五人は横腹を擽って降参した。Aに関しては、抵抗が凄まじかった為に反撃の余地もなかった。今まで何度も見てきたが彼女の身体能力は異常である。正直に驚いた。其れで今はどうしているかと云うと、建物を出て、人通りの少ない橋の上を歩いていた。彼女が前、私が後ろだ。

「皆元気そうでなによりだったよ。それにしても、前々から思ってたんだけれど、織田作って子供の扱い上手だよね」

「そうか。お前程じゃない。俺一人で行けば、次はAを連れて来いと云われる」

「そうなの、嬉しいな…」と、広がる海を見て微笑んだ。青緑の瞳は日の光を反射して光を帯び、潮風に乗って彼女の白い頭髪が靡く。褐色を滲ませた光の中に消え入りそうだ。
彼女は、如何表したらいいか判らないが、何処か『哀しげ』だった。理由は判らない、何故、ましてや本当に彼女が哀しげに思っているのかも判別がつかない。
ただ＿＿＿彼女は何時にも増して美しかった。
消え入りそうだ、だからだった。彼女が橋の手摺に象牙を型どった様な手を添えた時、何がしかの危険な感覚が私を襲った。之は悪寒だろうか、恐怖だろうか、でなければ一体何なのだろう。
判らなかった。訳が判らなかったが、私は何故か彼女の手を取って『引き止めていた』。
そうして彼女から向けられたのはきょとんとした疑問の目だった。一体私が何をしてしまったのだろうかという様な。私は幾滴かの冷たい汗を流していた。

「如何したの、織田作」

否、もしや引き止めたというのは些か間違った表現なのかも知れない。だが、私には不思議とその言葉が今の彼女と私の状況に該当すると思えた。何故かは未だ判らない。小雨の降る天気のように、ぼんやりとそんな気がしただけの事だった。判らない、彼女にも私にも。だからだ、そんな訳の分からない愚行のお陰で、らしくも無く彼女の表情は戸惑いそのものである。しまったと、私は心の中で密かに後悔した。彼女の戸惑いと疑問の混ざりあった瞳を見て、正にそう思ったのだ。私の愚行と愚考の末で、この堪らない沈黙の有様なのだから。きっと、彼女は『ごく普通に』なんの変哲も無く、いずれ日が落ちて行く海の向こうを眺めていたのだろう。海ではなく、そのもっと向こうの世界を見て、私の元から消えて、なんの前触れも無く居なくなろうとしていた訳では無い。きっとそうだ。そうに違いない。

正に、自決を測ろうとしていた等、全く持って、有り得ないのだ。