氷晶、氷解 2 ページ47
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「……そうだよ…………私は、絶対に死なない……」
声がした。
私がだき抱える其の人物から。
「……あー……痛ったた、ごめん織田作、鎮痛剤と厚手のガーゼが腰のケースにあるから、止血頼んでもいい…」
「…………はは」
とめどなく溢れる涙に、頬を濡らしていた私は、呆気に取られて思わず笑った。何食わぬ顔でむくりと起き上がった彼女は、異星人を見るかのように怪訝な顔をして、「変な人」と呟いた。 そしてついに腰を丸めて泣き崩れた私を、ぎょっとしてから宥めた。額に当てた血塗れの右手が、自分の涙で濡れて微かに洗い流される。
「私が貴方を置いていく筈がない」
細い腕が私を覆って、管楽器にも似た声が私を呼んだ。
「貴方が私の生きる意味なのだから───織田作…」
* * *
数分前───
太宰からの話は、詰まるところ、思ったよりも至極単純なものだった。
「君達が恋仲になる少し前、彼女の家に仔猫を届けに行った時の事さ。その時の顔と云ったらこっちが悲しくなるくらい酷くやつれてて、それで言うんだ、“このままだと、織田作が死んでしまう”ってね。そりゃ、余りに急な事で信じようがなかった。だが、彼女は決してこんな質の悪い嘘を吐くような人間でないこともよく知ってる。まるで突拍子もなくて、あやふやで、でも彼女には確かな確信がある様に思えた。だから私は彼女から、あと数ヵ月後に『ミミック』という異国の武装集団がポートマフィアと敵対すること、ミミックの目的、そして、其れによって織田作が犠牲になること。大きく、以上が、私が不確定的な情報として許容できる範囲で伝えられた『未来の情報』だった。敢えて、安吾の裏切りを伏せたのは彼女なりの気遣いなんだろうと、今になって思うよ」
その時の太宰の顔は、まるで贈り物を貰った時の少年の顔つきだった。
「“力を貸して欲しい”って、彼女は私に云ったんだ。はじめてだった、いつも独りのあの人が、私に頼ってくれたのは。私は…彼女が如何なる手段を使って未来を知ったのか知らない、詳細な情報。でも、信じる事にした。
それから、私独自の捜査以外は全て彼女が指揮を執った。君を美術館に向かわせんとしたのも、情報不足のジイドと君を引き合わせないため。子供達を厳重に匿ったのも、君を戦わせないため。路上で君を守ったのも、ミミック殲滅の為の部隊編成が異常に迅速だったのも、最愛の君に異能を掛けたのも、全てが彼女の手中だった」
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作者名:ワッさん+a | 作成日時:2018年5月21日 23時