夢の果て 2 ページ41
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「
微かな未熟さの残る重低音が響いた時、病室の引き戸の向こう側に潜んでいた同僚の黒服達が、私に小機関銃を突き立てた。
私を襲って来たのが先ず動揺である。其れが全身に響き渡って、私の身体を一瞬だけ痙攣させた。こう云う場合、太宰治という彼は、私を引き止めるような行為は決して行ったことがない。私が何かに向かっていく条件が何時であろうとも『井伏A』であったからだ。そして、今回も、その根拠は変わらない。
私は自らの眼光を、二つの機関銃の銃口に据えて、多少の詰問を施した。恐らく、もう少し先にも之ら同様のものが控えている事だろう。
「太宰、何故止める」
「云った筈だよ、この抗争は君には関係ない」
奇妙なのは、私を引き止める上で妙に用意周到過ぎるところである。誰かがこの状況を予想して、こんな茶番を企てている事には、間違いない。
「Aが、あいつがお前にそうしろと云ったのか。俺をこの抗争に参加させないために…たった一人でジイドの元へ乗り込む為に…」
太宰は俯いて、即ち肯定を意味する沈黙を置いた。
得心を獲た私は、また一歩、病室の出口に向かって身を乗り出した。二つのうち一つの小機関銃の銃口が私の右肩に突き付けられている。今その引き金を引かれれば、私の方は痛みを惜しむ間もなく吹っ飛んで、そのまま出血多量で死ぬ事だろう。だが、そんな事は私の頭の中には無かった。ある一点の問題を覗いて、何もかもがどうでもよかった。
「太宰、この二人を退かせ」
私の肩を刺突する銃口が微かに震えた。
太宰はこちらに見向きもせず、あくまで冷酷に言い放った。
「君に何が出来る」と。
「君は殺しをしない、殺しをしてはならない、そうだろう? そんな君に、元軍人の彼らを殺すことができるのか。彼女を追ったとして、君は、彼女が人殺しをしている姿を、見る事ができるのか。Aは、君が救援に来ることを断じて望んではいない。だから、私は君を止める、友人として____。
本当は、美術館の抗争の時に、君をしっかりと止めておくべきだった…」
熱のない声で呟くと、太宰は椅子から立ち上がって、こちらと目を合わせた。
「…彼女の異能力は、『過去、他人に身体的危害を加えた人間に発動し、受者には副作用として、深層心理を抉る”悪夢”を見せる。』知っているかい、織田作。数年前、数々の功績と栄誉を挙げつづけた彼女が___」
井伏Aが、なんと呼ばれていたか。
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作者名:ワッさん+a | 作成日時:2018年5月21日 23時