美しい人 1 ページ5
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＿＿何でもない毎日である。
それに少しと彼女の姿が加わって行った。私の生活の一部に彼女はすんなりと馴染む。姿も笑顔も声も。否、私が無意識的に彼女を視界の中に入れているのかも知れない。そう、彼女は人に話し掛けようとはしないそうだ。太宰から聞いた話ではあるが、事実なのだろう。
井伏Aは、人間に興味が無いのだと。
寧ろ、マフィア自体、戦う事自体にも興味を持たない人間だ。それ故に、変わり者だと云われているのだ、と。＿＿＿では、何故彼女は、私に声を掛けたのだろうか。
そう思ってから、疑問を流し込むように朝食に付けた珈琲を喉の奥に流し込んだ。考え事のせいで、苦味を感じる冷めた珈琲である。ただ、疑問が消えることは無かった。
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そうして私は何時もの様にマフィアのビルへと向かった。掃き掃除を頼まれていたのだ。一層の事、清掃員にでもなってしまえば善いのでは無いかとつくづく思うが、転職は、そう簡単には行かないだろう。何せ、此の横浜の裏を悉く取り仕切る、無情卑劣なるポートマフィアなのだから。灰色の壁の連なる通路の奥をぼうっと見つめて考えて居た。人気の少ない路上、処々には野良猫が
角を曲がり、また同じような人気のない道。それと、少女の声がした。甲高くも何処か柔らかさのある少年らしい声だ。
何処かで聞いた事のある声…笑い声だ。
「此方おいで。よしよし善い子」
細い路地を見ると、声の正体は、真っ白な女だった。長い髪に殆ど覆われた、か細く小さい背中の女性。其の白く細い指に、濁った銅褐色の猫はすり付いた。如何にも幸せそうである。
「こんな処で、何してる」
自分でも在り来りな質問だ、と心底呆れた。
「見ての通り」
先程聞いた、少女の声が返ってきた。か細く白い見た目確りと合致する、それらしい声である。女性は振り返った。青緑の瞳に、髪と同様の白白とした顔。井伏Aは、静かであり純粋な笑顔をこちらへと向けて再び口を開く。
「猫と戯れてるんだよ。織田作…昨日ぶりだね。貴方こそ何で此処に居るの…」
「組織ビル裏の清掃だ」
何気もなく答えたつもりであったが、又、何気もない表情で彼女は云う。「そうなんだ、じゃあ私も一緒に行くよ」と、差も当たり前のように、同僚が聞けば泡を吹くような言動を。
だが、其れを今度は否定しなかった。してはならないと思ったのだ。だから、私は成る可く淡々と云う。「判った」と。
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作者名：ワッさん＋a | 作成日時：2018年5月21日 23時
