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貴方と友人と 4 ページ38

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『灰と化すのは、彼女だ』



再び、私はあの、詰まらない新聞紙の様な世界に立っていた。微かに目の奥が熱い。

私は黒い積乱雲に覆われた天を仰いだ、そのぼんやりと灰色の雲がかかった頭上からは、再び黒い雨が降ってきた。だが、不思議な事に、その雨に触れても、服が汚れる訳でもなく、増してや、濡れさえもしない。私の服に触れた途端透明に染み込み消えていく様子を、黙認して、空から直線が落ちるビルの隙間をしばらく眺めると、そこから一人の少女が歩いてきた。
其の虚ろな青緑の瞳には何処か見覚えがある。
此方に視線を向けて、よろめく事もなく、ただ、無機質な表情で歩行する少女は、其処が定位置として初めから設計(プログラム)されているかのように、ぴったりと停まって、微動だにしなくなった。まるで機械人形を思わせる佇まいは、冷たい手で背筋をなぞられ、ぞっとする感覚を催させた。

あの少女の塩を彫刻を思わせる白い姿には、大きく見覚えがある様に感じる。
だが、どうやら記憶に靄が掛かっているようで、何度試しても、一向に脳内の霧は晴れない。ぼぅっとした意識の中、どうしたらいいのか分からずに、仕舞いには足元に目をやった私は、少しの間、私の靴の爪先を鍵型の頭でつつく、白い山椒魚を見つめていた。余りにも、長い事、そいつは私の靴に遮られた状態で、避けて通ろうともしないが為、仕様も無く、彼が停留していた右足を持ち上げてやった。


其れから____




パァンッ





咄嗟に顔を上げた、私の右斜め奥から、乾いた銃声が鳴り響いていた。雨の中で霞んでいて良く見えなかったが、そこには確かに、襤褸布を纏った影が佇んでいた。
其の(つぶて)は、私の右斜めを見事な速さで通り過ぎてゆき、目の前に立ち竦んでいる少女の頭蓋に凄まじい音を立ててめり込んだ。

その光景が手を引く様に、私の記憶を鮮明に奮い立たせたのだ。



「A…」



思い出した、最も近しい単語を呟いた途端、私の脚は、ぬかるんだ地面を蹴って走り出していた。

なぜ、私は忘れていたのだろう。

灰を掻き集め練り固めて造られた木偶の坊の様な身体に、銃弾がめり込んだこめかみから、黒い亀裂が盛大に唸った。軋むような音が、私の鼓膜に刺さるように響いてくる。


なぜ、もっと早くに走らなかったのだろう。


崩れかけた身体に、藻掻くように手を伸ばしたが、其れは霰もなくすんでのところで崩れ去った。







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設定タグ:文豪ストレイドッグス , 織田作之助 , 太宰治   
作品ジャンル:泣ける話
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作者名:ワッさん+a | 作成日時:2018年5月21日 23時

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