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誰が為… 3 ページ33

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私の背後から、魂の抜けた人間が、糸の切れたあやつり人形の様に倒れる無機質な音がした。本能的に後ろを振り向くと、ミミックの残党が、銃で正確に撃ち抜かれた頭の中心から血を流して地面に伏している。ぼろ布の中から少しだけ覗いている表情には、理解できない穏やかさが讃えられて居るのが何とも奇妙で、その生臭さが更に私が感じている悪寒を引き立てた。

「『敵』は、貴方の予知能力と反射能力の限界を付いてきたんだ。浅はかにも、手榴弾の爆撃でもたついた貴方の足を掬おうとした…」

焦点を失った表情を浮かべる太宰の手を取って、自立を促しながらそう話したAの声は、人間らしさを失った機械のようで、既にある言葉をただ淡々となぞる人工知能の冷たさを携えていた。白い髪と肌に、黒い作業服、そして何よりも、殺意を閃かせた青緑の瞳がより一層、その冷徹さを高く掲げているように感じる。
彼女の黒い革でできた紐靴の濁った音が、放心状態の私に近づいてきた時、混乱に身を委ねていた思考がやっとの事で状況整理に乱走した。

「なぜ、お前が此処に居る」

「織田作が先ず攻撃されることを予期していたから。でも、これでもう貴方の方には襲いかかって来ないよ。ミミックの長の目的は、私の更なる怒りと憎悪を買う事、貴方がジイド自らの部下によって攻撃を受けることに意味がある。だからこそ、未来観測の異能者を確実に殺せるに値しない手口だった…」

「お前は…一人でミミックの殲滅に全うするつもりなのか」散乱した疑問の中で、辛うじて二つ目の質問を拾い上げた時、しばらくの沈黙を経て、Aは返答した。

「……先刻、治さんの部隊からミミックの本拠地の情報が伝達された。アンドレ・ジイドの異能力は非常に強力だ、対抗できるのは私を置いて他に居ない」と、再び無機質な返事を淡々と述べて、死体を思わせる彼女の瞳が私を見やった。眼の中にあるティファニーブルーには、一切の光を通さない泥沼が投影されているように思える。
私は、事実を否定するように、彼女の両肩を掴み、あくまで慎重に彼女に訴えた。

「止せ…何もお前が出る幕じゃない、A、お前は敵対組織に踊らされている。美術館での抗争の時、敵の総統(ボス)と何を話した」

「だだの、宣戦布告だよ」

違和感を覚える笑みを浮かべる彼女に、怒号にも似た懇願を、私は叫んだ。最後の一本になった糸に縋る囚人のような思いだった。









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設定タグ:文豪ストレイドッグス , 織田作之助 , 太宰治   
作品ジャンル:泣ける話
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作者名:ワッさん+a | 作成日時:2018年5月21日 23時

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