悲しい哀しさ 1 ページ28
病室のドアノブに手を掛けた処で、太宰が息を殺す様な静けさを帯びた声で云った。
「織田作? まさか行くのかい?」
「Aには扶けが要る。それに、全戦力を持って迎撃するんだろ」
私の言葉に疑念を抱いたのか太宰が不可解そうに一瞬だけ眉を顰めた。そして一秒も過ぎること無く穏やかに微笑むと、云った。
「人殺しをしない織田作は抗争なんて興味無いと思っていたよ」
「無い」と答えた後、何か言いたげな太宰の言葉を押し切るように付け足した。「だが───」
「其れがAに関係するなら、話は別だ」
生きている分、借りは多く作っている。太宰にもAにも、そして安吾にも。
話を終えると、すぐさまドアを開け抗争の只中と云う、市内の美術館へと向かった。
* * *
──抗争の只中である筈のその場所は、抗争と言うには、戦闘と云うには、余りにも静けさだけが取り巻いていた。
美術館の中には三人。芥川とか云う黒衣の少年とその殆ど脱力した躰を支えるA。そして、銀の髪と襤褸布を纏い、『灰色の幽霊(グラオガイスト)』二丁の銃口を目の前の二人に向けた男の姿があった。Aも同様に自らの拳銃を眼前の男に向けている。
警戒感のある乾いた静けさに重音が二つ。
私が男の拳銃二丁を弾く為に放った9ミリ拳銃の音だ。二弾は命中し、男がよろめいた瞬間、美術館のドア付近に居た私は何故か唖然とする男を、片手の銃口を向け、警戒し乍ら疲弊した様子の太宰の部下とAの元に移動した。
「怪我はないか?」驚いた様子で何かを云おうとしている彼女に構わず、芥川の躰を担ぎ、尋ねた。納得の行かない様な怪訝な表情で応えるA。
「芥川君は銃弾が掠って腕を軽傷、私は何ともないよ」
「そうか──取り敢えず移動する。
話はその後だ」
間を置くことなく沈着した声が云う。
「……そうだね。私は後方を警戒する。前方の方は、まだ残党が控えてるかもしれないから気を付けて」そして又、じっとこちらの様子を伺う、幽霊の長と思しき人物に視線を向けて、
「私は、少し彼と話をするよ」
と、暗転した視線で睨む。
「………嗚呼、判った。
無理だけは絶対にするな」
──彼女は一体あの男と何を話そうというのだろうか、何の根拠と利益が有って……私の思考にはそれを考える余地すらない。私は何も知らない、何も判らない。
丸で、暗闇の中に一人、取り残されている気分だった。
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作者名:ワッさん+a | 作成日時:2018年5月21日 23時