消失の命令 3 ページ25
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あれからは、予めのAの連絡で太宰の援助があり、何とか切り抜ける事が出来た。迅速な対応のお陰で傷を負った人間が出ることはなかった。だた、一つ気掛かりな案件が出来てしまった事を抜けば、申し分無い。
問題となったのは安吾の部屋で見つかった箱の中身だった。
“灰色の幽霊(グラオガイスト)"
其れは古い型式の欧州で使われる拳銃で、近頃武器庫を荒らしたり、宿泊施設にて私達を狙撃した張本人達のシンボルだそうだ。
敵対組織の名は────“ミミック”
そして、箱の中身は連中のシンボルである其れだった。中に入っていたのは、“灰色の幽霊”だった。之が何故安吾の部屋の中で見つかったのか、安居が裏切ったのだろうか、彼は私達の敵対者となってしまったのだろうか。思考は絡まるばかりで、その事態は、更なる混乱を私達にぶつけた。
「織田作、安吾は本当に“ミミック"だったのかな。私達を裏切ったのかな」
Aの其の声は哀しげだった。今更私は後悔している。彼女を此の仕事に参加させるべきでは無かったのでは無いかと。背の重い物に更に重い物が重なり、何時か壊れてしまうのではないかと、いつもの様に笑わない彼女を見て、そう思った。彼女の問いには判らないと答えた。
──織田君、Aちゃんを頼むよ。
Aが執務室を出た後に父親らしい表情をした首領に云われた言葉だった。だが、私に彼女を護る事が果たして出来るのだろうか。彼女は何処か私の歩く道の先に居る様な気がした。誰も辿り着かない遠い未来をたった独りで見据えているような気がした。そんな彼女に、果たして私の手は届くのだろうか。
そう思案を続けながらも私は読んでいた書を机の上において膝の上に肘を乗せ、指を組む。
此処は安吾の嘗ての仕事場だ。
安吾と初めて逢った場所である。其処に彼女とともに来ていた。並んだ本棚を見るに彼女が静かに呟いた。
「善い仕事場だね」私はその言葉に頷くと波を立てぬように「ああ」と返事をした。私と同感で、彼女らしい意見だった。初めて逢った時はまるで別の次元を歩いているような人間だと思っていたが、こう同じ事を思うと嬉しいものである。
「貴方なら、此処の仕事場似合いそうだなぁ。現に似合ってるし。私もこんな処で働きたい」
「お前なら善く似合うだろうな」
「そう?」
「ああ」
「じゃあ織田作と一緒だ」彼女ははにかんでそう云った。
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作者名：ワッさん＋a | 作成日時：2018年5月21日 23時
