消失の命令 1 ページ23
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───それで、今日の私はAと共にポートマフィアの首領に呼び出されていた。知らせを受けたのは黒服に身を包んだ平坦で沈着した同僚からではなく、何時も良く聞く透き通るような声。当のAからだった。私は慌てて身支度を整え、車を動かし彼女の元へ向かい、車に乗せてアクセルを十分に効かせてハイウェイを疾走。
「ねぇ、織田作此の車逆走してるよ」
「何…?」
途中、このような会話を二、三回程した様な気がする。アクセルと急ブレーキに振り回された彼女の表情は真の苦痛に染まっていた。何とか無事に事務所へ向かい。塵一つないエレベーターで最上階の首領執務室を目指し、廊下を渡る。暗く整備された空間での、警備に徹する同僚達と云えば、幹部である彼女を見るなり、用件を訊く事もなしに壁と一体化するかの如く早々と道を開けた。私がAの恋人である事を知る首領と対面すると私は軽く深くの間で一礼する。前提辺りの執務室での出来事はさて置き、結局の処、私達が貰い受けたのは───
『行方不明になった坂口安吾の捜索』だった。
之には流石の私もそしてAも動揺していた。その動揺を見詰める父親の悲しげな視線を見ることも無い程に俯いて、らしくも無く彼女の顔は恐怖に染まっていた。何時も浮かべている穏やかで純粋で笑顔を思わせない暗く重い表情が其処に有った。
其れはある種の否定の表情にも思えた。
私には何故彼女がそんな顔をするのか、判らなかった。ただ、その苦痛の表情を眺めて─────だが、成る可く気には止めぬように零れそうになった疑問を抑え込んだ。『教えて欲しい』と『何を恐れているんだ』と或いは訊けば善かったのだろう。だが、何故か訊いては成らない様な気がした。訊けば今保っている彼女の柱に亀裂が入るのではないかと直感したのだ。
紛れもなく其れは私の意識から導き出されたもので、他のどんな事情を述べても適わない様な気がした。同時に無力であると思った。
「さぁ織田作、何処から調査しよっか」
その悔みを頭の奥に仕舞い込むことは出来なかった。私は丁稚だ。「撃ったり殴ったり脅したり」出来ないマフィアと呼ぶには程遠い度胸の無い人間なのだろう───
だが、責めて、
恋人である彼女の救いに成りたいと思う事は不思議な事ではない筈だ。苦しみの中でもがいている大切な人の支えに成りたいと………
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作者名:ワッさん+a | 作成日時:2018年5月21日 23時