ヒョウショウと呼ぶ 2 ページ3
「あっ、織田作!」
2度目に会ったのは、仕事中だった。否、仕事と云っても私は一介の下級構成員で、受けよる仕事は、精々マフィアの傘下にある商店街を見回るか、捜し物の手伝いと云った処だ。其処に何故か、彼女が居た。彼女は何気もない表情で私に手を振り、軽やかに駆け寄って来たのだ。
マフィアの幹部、その上、当首領の義理の娘が、組織の端くれとも呼べない下級構成員に、満面の笑みで手を振り乍ら駆け寄る。準幹部級の人間が見れば、卒倒する事だろう。
「丁度、此処らで仕事してたんだよ。小密輸船の見張り番。織田作は何してるの…」
私の疑問を見透かした様に彼女は口を開いた。
そう云えば、聞いた事がある。此の井伏Aと云う幹部は、他の幹部が請け負う様な、秘密の多い任務は受けないと。代わりに転がり込むのは精々下級から、中級構成員の所業である。
最もな事、小柄な密輸船の見張り番なんて、相当の事が無ければトラブルは起きない。あったとしても、マフィアでは軽い殴り合い程度だ。云わば、下級中級構成員が成すこととは、之の事である。
此処は、商店街近くの廃墟だった。敷地は広く、空はとっくに暗くなっている。其処に彼女が現れた。透き通るほどの美しい白髪が、蒼白い月の光を反射して、光っている。丸で、もう一つ月がある様だ。
「戦闘後の片付けだ」
「へぇ…」興味が有るのか無いのか判らないキョトンとした表情で、弾薬筒の散らばった地面を見回した。
そして、驚くべき事を言い放った。
「手伝うよ…こんな数じゃ時間掛かるでしょ」
「遠慮しておく」
成る可く短く断っておいた。幹部の彼女に迷惑を掛ける訳には行かない。こうした方が経験上、上手く手を引いてくれるのだ。と、仕事に戻った。
「私が、幹部だから? それとも、変人だからかな…」
余りにも機械的な声に、私は動揺して彼女を見た。月光に照らされて何気もなかった筈の表情は無垢な哀しみに染まっていた。
私は答えられずに居た。沈黙が落ち、暫く続いたが、軈て、彼女はゆっくりと目を伏せる。
「おやすみなさい、頑張って」
去ろうとしている後ろ姿が、私の目に焼き付く。
私は咄嗟に彼女の手を握った。引き留めていた。引き留めねばならないような気がした。如何にも危うさを感じたのだ。とてつもなくギリギリの線に立っているような気がしてならなかった。
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作者名:ワッさん+a | 作成日時:2018年5月21日 23時