寂しい彼女 3 ページ14
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「治さんがね、身寄りもない猫だし、飼ったらどうだい?って云って呉れたからそうしようかなって、ね、だって本当に殺風景な部屋でしょ…?」
私が反対をしようにも、ネーミングセンスと云う物が私には無い訳で、『イサク』という名前は、すんなりと決まり、引き続いて彼女の手は猫の赤銅色の毛並みを撫でていた。当の私は彼女の言葉に、些か驚いていた。
「太宰が?」
「うん、びっくりしたよ。突然此の猫を手に抱えて現れてね。…顔、引っ掻き傷だらけだった。後、織田作にそっくりで落ち着くだろってさ」
「何故俺に似ているから落ち着くんだ」
私がそう聞いて見ると、撫でる手を止め、彼女は固まった。
何かを必死に伝えようとしていて、それをまた得体の知れない何かが押さえつけているかのように、小さく開いた口元が微かに開閉している。
余りにも、卑劣な程悲しい顔で───
否、其れは一種の泣き顔に近かった。青緑の濁った瞳が空虚を写してに床に落とされている。それを見た私は、何か云おうとして、直ぐに喉の奥に声を押し込んだ。何も云え無いが、何かしてやらなければ成らないような気がして
───愚行であるか判らないが、抱き寄せた。ろくに食事も取らないのだろうか、余りにも脆弱で細く軽い身体だ。之と云って女性を慰める方法を知らない結果である。が、こんなにも在り来りな方法にか、彼女は小さく笑った。
「…織田作はさ、優しいよね。私と違って、心が広くて世話焼きで…
何で、そんなに優しいかな…」
「お前が好きだからだ」
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そうして、
とうとう、私は彼女に告げてしまった。
───「………………え」
小さく、異様に響く驚嘆の声。
私といえば、腸から沸き上がる様な羞恥に自分を殴りたくなっていた。何故、此処で即答の告白を成すのか、己でも全く意味が判らない。朦朧とする意識の中で名前が何度も呼ばれている様な気がする。
「織田作………それ本当…」
些か深刻な表情で彼女が訊いた。
「不満だったか」
変わらぬ顔に、困惑した私が云った。
Aは表情を改めると、考え込むように俯いてから、ゆっくりと首を振って、照れ臭そうに微笑んだ。
「そっか…
善いよ、私も貴方の事とても好きだから。
どうか、こんな私をこれからも、恋人として宜しくお願い致します」
慎ましく頭を下げた彼女を私は凝視した。
───今にも卒倒しそうに成っていた。
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作者名:ワッさん+a | 作成日時:2018年5月21日 23時