第九話 ページ9
『お、おはようございます』
「Aさん、おはようございます。今丁度朝ご飯が出来たところですよ」
リビングに入った途端、美味しい匂いがした。
まさか、私の分の手料理も既に用意されているとは思わなかった。
優しいキャラの沖矢さんなら有り得る話であるが、中身が赤井さんだと知っている私は少し笑みが零れてしまった。
「どうぞ、こちらへ座ってください」
『あの、ありがとうございます』
「いえいえ、一人分も二人分も変わりませんから気にしないでください」
『では、お言葉に甘えていただきますね』
匂いのままの美味しさだった。
作りたての手料理の温かさに少し泣きそうになった。
また、自分の記憶は全然戻ってないけども、誰かの手料理というものを久しく食べていなかったんじゃないかな…
『とっても美味しいです。お料理上手なんですね!』
「いえいえ、それほどでもないですよ。お口に合って良かったです」
『沖矢さんほど器用ではないと思うので、料理も下手だと思うんですけど…今日の夜は私が作りますね。ただ、居候させてもらうだけでは申し訳ないので』
「ホォ…Aさんの手料理ですか…とても、楽しみです」
楽しみとかほんとやめてほしい
というか、そもそもこの人は他人が、私が作った料理食べてもいいのかな…
私の事を完全に信用してて、毒物混入はありえないと思われてるとか…?
いや、自分、怪しすぎるからそれはないな(笑)
一般人のこの私が毒物混入をしようとしても、絶対気づくという自信があるからか?!
そうか、私、舐められてるだろうし、その線で決定だろう
『あ、そういえば、沖矢さんにお願いがありまして…』
「なんでしょうか?」
『私、携帯が壊れてしまっていて、連絡手段が何も無くて、少し不便だなと思いまして…ただ、持ち合わせがなくてですね…』
「なるほど…確かに連絡がとれないのは不便ですね」
『それに私は今、本名すら怪しい身なので携帯の契約が難しいと思うんです。必ず、お金は返しますので、携帯を用意して頂けないでしょうか?』
「分かりました。早めに用意しておきますね」
昨日、職業=大学院生と言っていた彼に、携帯を強請るなんて鬼畜な女だなとか思うが、実際はFBIの凄腕スナイパーなので、携帯1台くらいお菓子買うのと変わらないだろう。
だからといって、お金の貸し借りはしっかりしたいタイプなので、きちんと1円単位で返済するつもりである。
まあ、とりあえず、携帯を手に入れられるのは助かる。
10人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:海扇 | 作成日時:2019年7月18日 17時