この世界の片隅に3【土方十四郎】 (ページ35)

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百三十五ページ35

「風邪引くぞ、ガキ」

『一言多いよ、おじさん』

「誰がおじさんだ‼」

肩に掛けられた羽織から香った匂いに胸の痛みとはまた違う音を立てた。

私の隣に胡座をかいて座った十四郎ちゃん。吐き出した紫煙は月に向かうように上へと上がる。

それを視界の隅に入れながら月へと目を向けた。

「とっつぁんから言伝だ」

『言伝？』

あの旅館とは別に水の屋の拠点として使っていた屋敷があったらしく、そこへ乗り込んだらしい。
中からは薬やら密輸したであろう武器やらが多数あってそれは上に引き取られ処理されたと。

ただその顔はどこか難しい顔をしていて、何かあるのかと問えば

「遺書渡された、お前宛の」

＂我が妹へ＂

その筆跡には覚えがあった。少し癖のあるそれは兄様のもので間違いない。

でもなんで私に遺書なんて…。

心臓が嫌な音を立てて早くなる。

また、知らない事が書かれてたらどうしようって。これ以上は受け止められる自信なんて……手が震えて仕方ない。

震える手に重なったのは少し冷たい手で

「一緒に受け止めてやっから安心して開け」

その顔はいつにも増して柔らかくて、大丈夫だと言い聞かせてくれてる気がした。

自然と震えも小さくなっていく。

目を閉じ、深呼吸をしてゆっくりと目を開く。

『あける』

決意を鈍らせないようにそれを口にしてそっとそれを開いた。

目を逸らしたくなる。怖い。

一瞬手を止めるがそれは先程の感情からじゃない。一歩だけ近づいた十四郎ちゃんとの距離に吃驚したからだ。

大丈夫だと告げてから止めていた手を動かして中身を取り出し、そこへ目を落とした。

幸せになれ、兄の分まで

その一言だけが綴られていた。