この世界の片隅に3【土方十四郎】 (ページ14)

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百十四ページ14

ーー相模の田舎、懐かしい田園が広がる。

本当は近藤さんがくる筈だったのだが野暮用で来れなくなった為十四郎ちゃんが来てくれた。…きっとその野暮用は姉御関連だと思うけど。

自然と溜息が漏れる。それに肩を震わせた隣の男。

あの日から十四郎ちゃんと言葉を交わす事はなかった。十四郎ちゃんが悪いとは思っていない、寧ろ私を思っての行動だとわかっていた。

分かっていたけれど、あんなに怒鳴ってしまった上に自分の考えてなさになんだか顔が合わせづらく避けてしまっていた。

( ＿＿気まずい…)

また一つ溜息を吐けば隣から舌打ち。

「そんなに俺と来んのが嫌だったか」

『いやそうじゃなくて…その…』
「気まずいとか思ってんだろ、分かってらァ」

見透かされてた。それを否定するつもりはなかったから軽く頷けばだろーなと。

ちょっと腹が立ったけど、事実だしと返そうとした言葉は飲み込んだ。

「そういや昨日の晩の話聞いたか？」

『…近藤さんから』

昨日の晩、奉行所に引き取られた蘭が逃げ出したらしい。いつかはと思っていたからそれを聞いた時の驚きは少なかった。

十四郎ちゃんもそう思っていたらしく「アイツのとこ戻ったんだろうな」と。だろうじゃなくて確実だよと返せば紫煙を吐き出した。

＂生け捕り不要、皆殺しにせよ＂

兄様の件を知った上からの命はその二言だけだった。

「…怖気付いた、なんて許されねェぞ」

『兄様を斬る覚悟ならできてるよ』

墓石に手を合わせる。閉じた瞳を開ければ見えるのは＂水島蓮之墓＂と刻まれた墓石。

本当に、居なくなっちゃったのかと胸が痛み目頭が熱くなった。

頭に添えられた手はゆっくりと動き、髪を梳いた。

流れた涙を隠すように私は俯いた。