愛のサンプル (ページ3)

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2話ページ3

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知りたくないものほど、聞き逃したいことほど、耳に入ってくるものだ。

幼い頃、そんな事実を知ってしまった。
それもまた、知りたくなかったし、知るには少し早すぎた。そして重すぎた。

朝食を静かに口に運ぶ。
今朝の朝食は、昨日と変わらない献立。俺がそう言っているからだ。味も見た目も、大層なものは求めない。食事には、あまり執着しないから。

いつも通りに食べ終えた後、小さく「ごちそうさま」とつぶやく。誰に向かって？そんなことを聞いてくる人すら、ここにはいない。至っていつも通りの朝。
だから、曲がり角で食パンを咥えて、美少女とぶつかるなんてこともない。
俺が食べているのは和食で、当然遅刻することもない。

「お時間になりましたので、参りましょう」

制服に着替え、身支度を終わらせると、あいつが話しかけてきた。時計を見ると、7時45分。出発には丁度良い時間だ。当然、こいつもそのことを分かって聞いている。

家では一番目立たない、黒のLUV4に乗る。やつがドアを開ける。運転席には既にドライバーが待機しているから、こいつはここまでだ。俺が車内に入るとまたやつがドアを閉める。俺は何も言わない。

「いってらっしゃいませ」

静かに、にこりと微笑んで謂う。ひどく慎重に、言葉を選ぶように。まるで速達で届いた割れ物のグラスを扱うみたいな、気持ち悪いほど優しい顔で。どうでもいいが、どうでもいいけどその顔だけは腹が立つ。何故か。
それが怒りなのか、自分でもよくわからないけれど。不快だ。

車は、控えめなエンジン音を立てながらゆっくりと動き出した。