Episode14「その子」【望月 綾萠】 ページ34
写真を撮る時だけは、自分でいられる。
そんな気がしていた。
シャッターを真上に向け、移り変わる空をファインダーに収める。
『....うん。いいのが撮れた』
夕焼けの、紫がかった空が何よりも好きで、
生まれ変わったら雲になりたいなぁ、なんて、突拍子もないことを考えては、一人おかしく笑っていた。
もう少しだけ粘ろうか、と、5時を告げるチャイムを聞きながら思う。
特にこの後用事はないし、まだ撮っていたいという気持ちもあった
『もしかしたら、蒼飛くんにも会えるかも....』
そこまで呟いて、ふと、この前蒼飛くんと一緒にいた女の子のことを思いだした。
まるで、恋人のような距離感。
蒼飛くんも、いつもとは違った表情を見せていて、
あれが“好きな人にする態度”かぁ、なんて考えて、
ズキン、と、胸が痛んだ。
やめよう。ぼくにも大会があるんだ。
最初で最後の大会。ぼくは、大好きな空をおさめたい。
まだ、もっと、もっと好きな空＿＿
「あのー」
不意に、ぼくに声がかかった。
慌ててそちらを見やると、
そこには、以前蒼飛くんと一緒にいた女の子が立っていた。
何故ここに。というか、貴方別の学校でしょうが....
だが、腐ってもコミュ症。しかも相手は好きな人の彼女(？)ときた。
『あっ、え、あ、その...なっ、何でしょうか....??』
案の定、ぼくの口から出たのはなんともまぁ頼りない声。
だからダメなんだと、ぼくの中のもう一人が言う。
「貴女...蒼飛の何ですか?」
言葉は佐野さんと同じなのに、雰囲気が全く違う
これが威圧感というやつか、と、あまり良く回らない頭で考える。
佐野さんと同じように、『先輩と後輩だ』と告げる。
何故蒼飛くんの周りの女子はぼくと蒼飛くんの関係が気になるんだろう.....
女の子の視線がチラリとぼくの名札に移動したような気がした。
「あっ、そうだ!....私の蒼飛のなので、手を出さないで下さいね♪」
そう、女の子が言った。
「やはりか」という気持ちと、名前のつけられない虚しさが胸中を占めた
そのまま帰ろうとする女の子を、
ぼくは声が震えないよう注意して呼び止めた。
くるりと振り返った拍子に、女の子の長い髪がふわりと揺れる。
....あぁ、綺麗だなぁ、
「何ですか?」
若干訝しげに尋ねてくる彼女に、ぼくは名前を尋ねた。
「...紅雷 夜、蒼飛の幼馴染です♪」
そう言って、彼女はその場を去る
何故か不意に、ぼくの目から涙が溢れた
Episode15「二人」【月城 蒼飛】→←Episode14「放課後」【月城 蒼飛】
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作者名：透・柴桜 x他2人 | 作成日時：2022年3月22日 13時
