姉愛［30］｡彼無個性｡ ページ30
季節は12月下旬。
年越しを間近に控えたこの時期。
マフラーやらコートやらと街を歩けば厚着をし寒さに凍える人々をよく目にするし。軒先の氷柱は糸のように垂れている。
唇から零れる本来透明な筈の吐息が白い。
これも冬特有。好きでも嫌いでもないが。
私は個性が個性なので、余り寒さは感じない。
｢はー｣
遊び半分で唇から白を吐いた。
そうやって無人の公園で惚ける。
惚けた時。鳴き声が私を覚ました。
｢君、また来たの｣
｢にゃーぉん｣
｢はいはいご飯ね｣
この仔は飼い主を持たない野良猫。
いつもご飯を強請りに来る賢いやつだ。
｢美味しいかい｣
｢にゃぉんっ｣
良かった。お気に召したらしい。
｢っぅう……｣
誰かの嗚咽が聞こえた。
｢…………？｣
猫を撫でる手を止め辺りを見渡す。
すぐに、震える少年を見つけた。
｢あれって｣
ヒョロっとした体。緑がかった縮れ毛。
大きな丸い瞳。頬にはソバカス。
間違いない。
以前勝己が言っていた無個性の男の子だ。
そんな子がどうして、こんな所でぐずくずと涙を流しているのだろう。
｢…興味本位だ。別に救けたいとかじゃない｣
そう言い聞かせ、緑の少年の元まで歩いた。
全く私は何がしたいんだ。
迷走に迷走を重ねる。
ヒーローになりたい訳でもない。
人に讃えられたい訳でもない。
彼に声をかけたところで利益なんて無いのに。
何故いつもこんな……。
｢はぁ」
自分に呆れる。
そんな伏せ目で少年の小さな背中を見つめた。
気配を消している訳じゃないが、彼は全く気付いていない様子。そこで気付く。
彼、何か持ってる？
目を凝らしてよく見てみると、確かに腕の中にノートが4冊程あるのが見えた。随分使い古してそうなノートだ。
それだけ大切な物なのか。
そう思った。けれど。
｢───！｣
少年はそのノートを噴水の中に投げ入れた。
まるで何かを堪えるように。
まるで何かを諦めるように。
区切りをつけるように。
少年のその細い背中に葛藤が滲んでいた。
『駄目だ。いけない』
私は何故かそう思った。直感で。
あのノートは、あの少年は。
それを捨ててはならないと。
だから───。
パシっ。
｢駄目だよ。捨てちゃ｣
引っ張り上げた。
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作者名：よる。 | 作成日時：2016年9月21日 16時
