姉愛［29］｡芽生愛情｡ ページ29
何なのだろうかこの状況は。
｢むぅー｣
｢…………｣
何故不満そうな焦凍にガン見されているんだ。
勝己宅から帰って来て。自室に戻ったら焦凍が待ち構えていた。襖を開ければ抱き着こうと走って来た焦凍の笑顔が私の顔…と言うか目を見た途端、不満そうに歪んでいった。
それからずっとこの調子だ。
正座をし沈黙の中見つめ合う。
｢ねーね｣
｢…何？｣
｢僕は要らない子なの？｣
…………は？
何を言い出すかと思えば。
要らない子だって？
そんな馬鹿なこと。
｢僕が、ねーねのお目目を綺麗に戻したかった｣
目尻に雫を溜め込み、消え入りそうな震え声で言う。純粋を表す透き通ったその涙。胸の真ん中がが軋んだ。
私の目を綺麗に戻したかった？
勝己も同じような事言ってたような。
｢僕のせいで傷ついちゃったねーねを、僕が元気にしてあげたかったのっ！ 僕がっ…僕がねーねを笑わせてあげたかったのに！｣
ボロボロと泣き出してしまう焦凍。
その小さく華奢な体を震わせ、私の為に泣いている。私なんかの為に感情を露わにする。
この子は本当、優し過ぎて心配になる。
人の為に涙を流す。感情を高ぶらす。
私にとって不可解でしかないそれ。
でも焦凍は、この子はこんなにも。
｢なのにっ！｣
｢おいで焦凍｣
｢っねーね…｣
ギュっ。
｢もう充分だよ。泣かないで｣
出来るだけ柔らかく抱擁した。
｢でも僕！｣
｢私も焦凍の悲しむ顔なんて見たくないんだ｣
｢…………！｣
｢君は要らない子なんかじゃない。私は君が側に居てくれるだけで元気になれる。心が安らぐ。とても暖かい｣
｢っ…うっぁねーね……｣
私の胸に顔を埋める焦凍。
丸々とした愛らしい頭を優しく撫でてやる。
その体勢のまま2分が経過した。
静まった胸元が気になって視線を落とすと。
｢スースー…｣
静かに寝息たてる焦凍が居た。
兎のようなあどけない丸い顔にまた癒される。
この様子じゃあ夕飯の時間も熟睡してそうだ。
｢起こすのも可哀想だし寝かしておくか｣
ふにふにとした頬を啄きながら呟いた。
これからどうなるか、どうするか。
クソ親父から君を完璧に守り抜くことは出来ないかも知れない。取り零してしまうかも知れない。
それでも私はこの子の為に。
全力を、死力を尽くそう。
｢愛してるよ。焦凍｣
眠る焦凍の頬を一撫でして。
私もゆっくりと瞼を下ろした。
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作者名：よる。 | 作成日時：2016年9月21日 16時
