姉愛［19］｡確認電話｡ ページ19
無言の帰宅。
無言で玄関をくぐり無言で靴を脱ぐ。
これでも私の帰宅に気付き走って出迎えに来てくれる愛おしい弟がいるので問題は無い。
タタタっ！
ほら来てくれた。
｢おかえりねーね！｣
｢ただいま焦凍｣
抱き留めつつ返す。
｢見て！ 僕頑張って描いたの！｣
はにかみ、大きな画用紙を私に見せる焦凍。
クレヨンで描かれた子供らしいその絵。
｢私と母さんかい？｣
｢うんっねーねにあげる！｣
｢ありがとう｣
この瞬間焦凍が本当に天使に見えて胸が踊った。どこまでこの子は優しくて透明なんだろう。
暖かな何かが膨らむ。
｢焦凍は絵が上手だね｣
｢ホント！？｣
｢うん。よく描けてる｣
褒めてやると兎みたいに飛び跳ねる。
愛らしい。またじんわりと甘い癒が広がった胸。
未だ飛び跳ねている焦凍に｢私はもう部屋に戻るね｣と告げた。
｢また晩御飯の時に｣
｢はーい！｣
元気よく返事をしてから母さんが居るであろう台所の方へ走って行った。
その焦凍の背中を見届けて、私も自室へ入る。
｢まさか焦凍にも貰うなんてね｣
呟き、既に壁に飾られている私の似顔絵を見やった。
焦凍とは違い、クレヨンではなく色鉛筆で描かれたその絵。口の悪いあの子が描いたとは思えないような繊細な色使い。
人は見かけによらない。
その通りだと思う。
｢ね、勝己｣
勝己の絵のすぐ右隣に焦凍の絵を飾った。
幸福感絶頂だったその時。
割くように電話が鳴った。
誰、こんな時間に。
相手が誰かも確認せず応答する。
｢もしもし｣
『どうした。不機嫌そうだな』
｢……。相澤さん｣
予想外の相手で言葉が遅れた。
『名前で良いって言ってるだろ』
｢一応年上だから｣
『一応ってお前』
ガシガシと髪をかく音が聞こえる。
だって私は8歳貴方は18歳だよ。
さん付けくらいしなくちゃ。
｢それより何かあったの？
雄英卒業出来なくなったとか｣
『俺がそんな不合理的な事態を招くと思うか』
｢全く｣
『即答かよ。からかうな』
適当にうんと返すと溜め息をつかれた。
何故だ。
『ひざしにヒーロー名付けられたんだよ』
｢へぇ。どんなの｣
『イレイザーヘッド。変じゃねぇよな……』
恐る恐る。みたいに訊いてくる。
｢変じゃないよ。恰好いいんじゃない？｣
『そう…か。ならいい。じゃあまた今度な』
｢え、ちょっ｣
強引に終了した通話。
耳許に無機質な機械音だけが残った。
相変わらず謎な人だ……。
｢ねーねご飯だよ！｣
｢あ、今行く｣
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作者名：よる。 | 作成日時：2016年9月21日 16時
