姉愛［285］｡こくはく｡ ページ35
＊＊＊
｢いっちゃん!! 返事していっちゃんッ…!!｣
息苦しいという感覚を忘れていた。
一心不乱に叫ぶことしか出来ない颯輔は、自身の無能な《個性》を恨みに恨んだ。震える右手に左手を添えて荒れる胸の内から逃れようとする。
そんなはずない。
信じたくはないと目を瞑る。
｢そんなわけ、ない、だって…だって俺の個性は…俺がいっちゃんのそばに居たんだからこんな事になるはずは…っ｣
眉がひくついて止まらない。
最悪を予感してしまう自分が怖い。
一歌が遠のいていく。
｢そ……ちゃん｣
｢───！｣
恋焦がれていた澄んだ声が聞こえた。
確かに颯輔の耳を通ったそれは、瓦礫の山からか細さを出していた。赤い血が不規則な模様を地面にのばしている。
ぴちゃ、その赤色に足を踏み入れた。
｢…いっちゃん？ いっちゃん、そこ、にいるの？｣
返事はない。声が出せないらしかった。
両の手で瓦礫を払い除ける。鋭利に積み上がったその山に突っ込んだ手は当然傷だらけになってしまう。
しかし颯輔の痛覚は麻痺していた。
一歌を助けるその一心で。
｢っ、いっちゃ…！？｣
やっとの思いで重い重いコンクリートを退けた。
｢……そぅ、ちゃん…｣
目にした一歌は真っ赤に塗れていた。
片目が半分まで閉じられている。青紫に腫れた目の周辺ではとてももう笑顔なんて作れない。
胸から下は重量感のある分厚い電光掲示板に潰されていた。ちょうど真上の屋上から落下したようだった。
一歌の目尻には涙の跡が伺えた。
｢いっちゃん!!｣
膝をついて手を伸ばす。
とても触れられなかった。
｢い、いっちゃん、早く病院、行かなくちゃ｣
｢…ぅうん｣
｢俺が助けるから、待ってて、これすぐ退けて｣
｢ごめんね……｣
そんなこと言わないでよ。
颯輔は唇を噛み締める。
目許に冷たい雫がじわりと浮き上がった。
｢…っ、んで、俺は…！｣
君を助けるために生まれた俺なのに。
こんなに呆気なく、結局何も出来ないで。
いっつも助けられてばっかりで。
約束だって、したのに。
｢ずっと…一緒にいようって言ったのにぃ"…!!｣
俺は臆病で、非力で、馬鹿だった。
ボロボロと溢れた涙が一歌の黒髪を濡らす。
｢そう、ちゃ｣
翡翠の瞳が颯輔を真っ直ぐに見つめる。
一歌は、何かを言いたげによれた唇を動かした。けれど声は出ない。
なんとかかすれ声を絞り出した。
｢大…好き｣
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1743人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
みるくてぃ(プロフ) - 電車で完結まで見たのですが、涙が止まりませんでした。本当に大好きな作品です！また読み返そうと思います！ (2021年6月29日 12時) (
レス) id: 850a94406b (このIDを非表示/違反報告)
夏李 - とても面白かったです！でも爆豪のヒーロー名は爆心地かと、 (2019年5月10日 18時) (レス) id: 663d9c3cae (このIDを非表示/違反報告)
ふわふわわたあめ♪(プロフ) - 涙腺崩壊…ほんとにやばい、面白すぎ！完結おめでとうございます！ (2018年7月23日 17時) (レス) id: 770379ee24 (このIDを非表示/違反報告)
Sena - 完結おめでとうございます！感動しましたー！姉弟愛が凄くよかったです。 (2018年5月23日 15時) (レス) id: dfb791a807 (このIDを非表示/違反報告)
柊 - ありがとうございました!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! (2018年5月20日 16時) (レス) id: 0c5a8c4f79 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：よる。 | 作成日時：2017年10月20日 19時
