姉愛［284］｡失うのか｡ ページ34
＊＊＊
｢んーっと…いっちゃんが好きなのは｣
人差し指でボタンの上をさ迷う。
近頃一歌が夢中になっていたカロリーオフの炭酸飲料がない。なんてこった、と悲劇を嘆いた颯輔の人差し指は引っ込んでしまった。
最終的には妥協に走った。
｢これでいっか｣
ホットでデリシャスであろう飲料を右手で包んだ。
考えるのが面倒になったのか、同じ物をもう一つ左手で包む颯輔。
両頬にその温もりを添えへんにゃり笑む。
小走りで自販機と別れた。
｢いっちゃん喜ぶかなぁ｣
彼女の笑顔を拝めるかどうか。
期待に胸を膨らませていた颯輔だったが、ふと解けていた表情が締りを帯びた。周囲の明らかな違和感と異変に鳥肌が立ちそうになった。
騒がしい。さっきまでいた大通りの方が。
人が、たくさん流れ込んでくる。
｢早く逃げろ!! 警察呼べ！｣
｢ちょっと押さないでよ！｣
｢誰か消防も呼んで!!｣
｢りゅうくん！ どこなの！？｣
颯輔の肩にぶつかる老若男女。
突然の光景に呆然としていたがハッと我に帰って、全ての元凶であろう大通りへ目を向けた。
煙が上がっている。ほのかに赤色も見える。
｢…いったい何が｣
颯輔の焦げ茶色が困惑に滲んだ。
ボト、ボト。
気づけば二本の飲料は地面に転がっていた。
｢おいっ何突っ立てんだ兄ちゃん！ 早く逃げねぇか!!｣
｢──！ あ、あの、大通りで何が｣
｢敵とヒーローがドンパチやってんだよ！ だから早く逃げろ！ このままじゃ兄ちゃんまで死んじまうぞ！？｣
ひと回り歳上のお節介そうな男に、腕を掴まれた。
｢待っ、俺は──｣
｢早く逃げるんだよ!!｣
にっちゃんが危ないかも知れない。
颯輔の頭にあったのは、ただ一つ。それだけだった。ついさっきまで一歌とあそこを歩いていたんだ。ふいに見つけた白い曲線のお洒落なベンチに、座っていて待っててくれと。
颯輔はそう言った。
俺はそう言った。
｢離してくださいッ…！｣
迷いなく踵を返した。
｢おい兄ちゃん!!?｣
男の声が背中を叩いた。そんなものは気にならなかった。無我夢中で走って自身とは反対に流れる人の大波をかき分けて。
炎がすぐ目の前に散らばってきた。
人がいない。いや、厳密にはいたが。
｢はぁっ…はっ…こ、こ、んな…｣
全てが血を流していた。
または死んでいた。
あたかも戦場のようなここに、愛する人が取り残されているだなんて。
颯輔の眉間はぐちゃぐちゃに歪んだ。
｢いっちゃん…!! いっちゃぁんっ!!!｣
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みるくてぃ(プロフ) - 電車で完結まで見たのですが、涙が止まりませんでした。本当に大好きな作品です！また読み返そうと思います！ (2021年6月29日 12時) (
レス) id: 850a94406b (このIDを非表示/違反報告)
夏李 - とても面白かったです！でも爆豪のヒーロー名は爆心地かと、 (2019年5月10日 18時) (レス) id: 663d9c3cae (このIDを非表示/違反報告)
ふわふわわたあめ♪(プロフ) - 涙腺崩壊…ほんとにやばい、面白すぎ！完結おめでとうございます！ (2018年7月23日 17時) (レス) id: 770379ee24 (このIDを非表示/違反報告)
Sena - 完結おめでとうございます！感動しましたー！姉弟愛が凄くよかったです。 (2018年5月23日 15時) (レス) id: dfb791a807 (このIDを非表示/違反報告)
柊 - ありがとうございました!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! (2018年5月20日 16時) (レス) id: 0c5a8c4f79 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：よる。 | 作成日時：2017年10月20日 19時
