彼は私の全て。 ページ2
「私には、決して出来ない選択ですね。」
どちらか一方を救うので精一杯だ、
と担当は力無く笑う。
「君は、優しすぎるんだ。」
「いいえ、それは貴方です。」
「優しすぎるから、そこまで自分を責めるのだろう？」
自分の命を大切に思うのは、当たり前のことだと思うがなぁ
鶴丸はからりと笑ってそう言った。
「考えてもみてくれ。俺は歴史を守る為に存在する。歴史を守るということは、人を守るということだ。だから、大切な人を守る為に命を投げ出すという行為はそう大層なことじゃない。でも君は、違うだろう？」
何か言いたげな表情で、担当は鶴丸を見つめた。
しかし、「君の答えも早く教えてくれ、」と急かされ、彼女は言葉を飲み込んだ。
「私も、貴方のように重ねた人がいるのです。」
「ほお、恋人かい？」
「さあ、どうでしょう。…しかし、誰よりも愛しいと思っております。」
はぐらかされたことには深く突っ込まず、お熱いことだ、と冷やかす鶴丸。
「貴方のことなら、きっといつまでもと答えるのでしょう。そして、私にもその返答を求めているのかもしれません。ですが、残念なことにそう答えることは私には出来ません。」
「おや、それはどうしてだい？」
「私の命には限りがあるからです。」
そっと、己の心臓の部分に両手を重ねて目を瞑る。
「これが止まってしまったら、私の魂はあの人を忘れて、あの人の側から離れていく。百年生きるのが精一杯の私に、いつまでもという言葉は余りにも重過ぎる。無責任過ぎる。」
「なら、君は一体どう答えるんだい。」
瞳を開き、真っ直ぐに鶴丸の黄金に輝く双眸を見つめる。
「歳をとって、あの人との思い出や記憶が薄れていって仕舞っても。何の為に待っているのかを忘れて仕舞っても。己の名すらも見失って仕舞っても。この命が消えてしまうその一瞬まで、あの人を待ち続けます。」
ケチくさいでしょうか、
と担当は恥ずかしそうに笑った。
しかし鶴丸は知っていた。
それが彼女にとって全てなのだと。
己が有する全ての時間を、意識が戻るかも分からない恋人の為に使うと、そう言っている。
彼女こそ、己の言葉の重さを理解していないのではないかと、鶴丸は一瞬思った。
しかし、直ぐにその考えを撤回する。
「あの人は、私にとって全てなのです。」
全て。全て。
失ったらもう自分には何も残らない。
ならば、彼の為に全てを捧げることなど、何の苦にもならない。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：伊織（神様卒業） | 作成日時：2018年5月3日 23時
