初桜、折しも今日は良き日なり【ars】 (ページ46)

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Aちゃんはリーダーの隣に座って、それは翔さんの正面になるわけで

翔さんはAちゃんを見ないようにしてるのか俯いて

コーヒーに刺さってるストローを咥えっぱなし。

「翔くん」

Aちゃんからの突然の呼び掛けに、翔さんのコーヒーがゴボッと音を立てた。

「翔くん、ストローは吸うんだよ？吹いたらゴボッてなるからね？」
「智くん...それはさすがに知ってるから...」
「ストローの使い方わかんないのかと思ったよぉ」

リーダーがとぼけた事を言って、クスクス笑ってる。

「さとちゃん、うるさい！ねぇ、翔くん。ニノくんや潤くんから聞いたんだけどね？」
「えっ...うん、何？」
「翔くんのお婆様ってお料理上手なんでしょ？」
「あぁ...うん！凄く上手いよ」

そう言えば、僕達がお婆さんの料理の話をする度にAちゃんは興味津々に聞いてたな。

「お婆様にお料理、教えて欲しいなぁ...」

Aちゃんがボソッと呟いた時、お客さんが入って来た。

「あ、いらっしゃいませ！ごめんね、ゆっくりしてってね！」

彼女は素早く立ち上がると、お客さんを案内して仕事を始めた。

「ねぇ、翔さん」
「ん？」
「チャンスじゃない？」
「え？」

リーダーも「なるほどー」ってニヤニヤしてる。

「Aちゃんをウチに誘おうよ！」
「えっ！？」
「お婆さんに料理、教わりにおいで！って」
「えぇ...」

何も不自然じゃないし、二人の距離を詰めれるチャンスだと思うんだ。

翔さんは格好イイのに恋愛初心者で、きっと自分からは何も出来ないしね。

帰り際レジで翔さんの背中を押してAちゃんの前に突き出した。

「あっ...の、Aちゃん...今度...」

不安そうな顔で翔さんが僕を振り返る。

大丈夫って想いを込めて頷くと、翔さんも頷いてまたAちゃんと向き合った。

「うちにお婆さんの料理、習いに来ませんか！」

翔さんの誘いにAちゃんは一瞬ビックリしてたけど

「うん！行きたい！」って、ニッコリ笑った。

「じゃ、僕が迎えに来るね！」

僕が送り迎えの約束をして、店を出ると翔さんがまた心臓を押さえてフゥフゥしてる

「良かったね！」
「...うん...」
「その日は僕ら皆出掛けるから！」
「えぇっ！？」

僕らが居なくたってお婆さんは居るけどさ

翔さんの最初は、それ位が良いでしょ？

見上げた空は夕焼けで、翔さんの頬と同じように真っ赤だった。

・・・END・・・