初桜、折しも今日は良き日なり【ars】 (ページ40)

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「ねぇ、翔ちゃん。そう言えばさ？」

庭にやって来たスズメに千切ったパンをあげながら翔ちゃんをチラっと見ると、翔ちゃんも千切ったパンを投げてる。

「ニノはさぁ、太夫ちゃんを身請け...だっけ？するんでしょ？」
「うん、そうみたいだね」
「そしたらさぁ、やっぱこの家から出てっちゃうのかなぁ？」
「うーん...新婚さんみたいなモンだもんね。俺らは邪魔かもね」

そっかぁ...寂しくなるなぁ...。

ずっと、ずーっと想い続けてた女の子を手に入れたニノ。

花街から珍しい位デレデレした顔で帰って来たニノは、「オレッ！世界で一番欲しいモンを手に入れちゃった！」って、うっれしそうに俺らに発表した。

身請け？ってゆーのが、どんなモンか分かんないけど潤くんは「お前、そんなに貯めこんでたの！？」って驚いてたからすっごいお金がかかるコトみたいなんだけど...

ケチンボなニノがそんなお金を出すんだから、恋って凄い。

「金の問題じゃねぇよ」って言うニノは「オレのこれまでの人生を太夫にあげただけ」なんて男前なコト呟いて、またヘラヘラ笑ってたっけ。

「ねぇ、翔ちゃん。Aちゃんにはあれから会ってないの？」
「えっ！？...えっとぉ...うん...」
「ニノと潤くん、しょっちゅう鬼ヶ島行ってんだから一緒に行ったら良いのに」
「だって潤が飛んで連れてけるのは一人だけだもん...」

翔ちゃんは分かりやすくシュンとして、スズメにあげる為のパンを千切る仕草が荒くなる。

落ち込んでんだか、拗ねてんだか分かんないや。

「ニノが鬼ヶ島行かない時に、潤くんに頼んでみたら？」
「えー...恥ずかしいし...」
「何が？頼むことが？Aちゃんに会う事が？」
「......どっちも......」

真っ赤になっちゃった翔ちゃんは、千切ったクリームパンを投げずに自分の口にパクっと入れた。

「翔ちゃん、可愛いんだけどさぁ」
「可愛くないっ！俺は男だ！」
「可愛いんだけど、男ならもうちょっと積極的になろうよー」
「...でも...」

また俯いちゃった翔ちゃんに「何もしなかったら、何も始まらないよ？」って、よく考えたら当たり前のコトを言ってみる。

「たっだいまー！あー、疲れた！」
「ニノ、僕にしがみ付いてるだけだろ？」
「Ｊ！いつもご苦労！」

そこに鬼ヶ島から帰って来たニノと潤くんがバタバタと家に入って来て、縁側に座ってる俺達を見付けて「何食ってんの？」って近寄って来た。