初桜、折しも今日は良き日なり【ars】 (ページ4)

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3.DOG。ページ4

里を下りて、暫く歩いてちょっとお腹が減って来た。

「チェリーパイ、食べよっかな...」

俺はそこにあった岩に腰掛けて、腰の巾着からチェリーパイを一切れ出した。

「いっただっきま...」

あーん、と口を開けてる俺に向かって前方から猛ダッシュで走って来る男。

すげぇ形相、すげぇ速い、すげぇ怖いんですけどー！！

「それ、何ーっ！？良い匂いーっ！！」

男は俺の目の前でピターッと止まって、チェリーパイをじっと見てる。

「えっ！？えっ！？お前、何っ！？」
「俺っ！？俺、犬っ！」

クンクンとチェリーパイを匂った男の頭にはピンと立った耳。

「あ、俺の名前を訊いてるの？」
「いや、そーゆー訳じゃないんだけど...」
「俺、雅紀！相葉雅紀！」
「雅紀...」

うん！雅紀！と元気良く応えたソイツのお腹がグゥゥ...って鳴った。

「あ...」
「何、雅紀お腹減ってんの？」
「うん...腹ペコ...」

くぅーん...と項垂れた雅紀が気の毒になって、チェリーパイをもう一切れ巾着から出した。

「...食う？」
「食べるっ！！」

俺の手から勢い良くパイを取ると、雅紀は嬉しそうにかぶり付いた。

「美味しいーっ！ありがとう！」

人懐っこい笑顔に、今までお爺さんとお婆さんしか話し相手が居なかった俺は何か胸がホワッてあったかくなって

「なぁ...雅紀って、暇？」なーんて訊いちゃって

「一緒にさぁ、鬼ヶ島に鬼退治なんかしに行かない？」なーんて誘っちゃって

ポカンとしてる雅紀を見て、「あ、ちょっと気持ち悪かったかな...」なーんて不安になって。

「うんっ！良いよっ！」
「え？良いの？」
「うん、暇だし！それに美味しいチェリーパイ、貰ったし！」

雅紀はチェリーが付いた口をクイッと手の甲で拭いて「よろしくね！」と、笑った。

「ねぇねぇ、君の名前は？」
「俺は、桜翔太郎」
「え？どこが名前？全部？」
「ううん、本当は桜太郎なんだけど訳あって翔って呼ば...」
「翔ちゃんねっ！」

俺が全部を言い終わる前に、雅紀はニコーッて笑いながら握手を求めて来た。

「翔ちゃん、よろしく！」
「あっ、うん！よろしく、雅紀！」

一人ぼっちで実は心細いし寂しかった鬼退治。

「俺っ、走んの早いし遠くの匂いも分かるからねっ！どんどん頼ってね！」

元気で明るいお供が出来た。