初桜、折しも今日は良き日なり【ars】 (ページ25)

今日:4 hit、昨日:9 hit、合計:282,808 hit

５ページ25

翌る日も、オレはランカ屋に訪れた。

連日やって来る事など無いオレが顔を見せ、太夫は一瞬驚いた顔をしたがすぐに柔らかく微笑んだ。

「今日もカズさんに逢えるなんて思っておりませんでした」
「太夫が恋しくて恋しくて、夜も眠れねぇからさ」
「また、御冗談を...」
「ンフフ、眠れないってのは冗談だけど恋しいってのはホント」

綺麗に結い上げてる髪をそっと撫で、キュッと抱き締め

丸い額に、軽く唇を当てる。

「太夫...あの、さ」
「カズさん」

オレの言葉を遮って、太夫が口を開く。

「何か、企んでらっしゃるでしょ？」
「...え？」
「カズさんがそのような表情をされてる時は、何か企んでる時」

そのような表情？
え？オレ、ポーカーフェイスには定評があるんだけどな...

自分の顎を撫でながら首を傾げると「私はカズさんのそのお顔、好きですよ？」と太夫の指がオレの頬を滑った。

「何年あなた様を見てると思ってるんですか？」
「...あぁ、もう何年になるのかな」

少し昔に想いを馳せながら、唇を重ねる。

舌で太夫の口内を撫でると、甘い。

「太夫、何か美味しいんだけど」
「フフッ...さっきまで飴玉を舐めておりました」
「え、良いな。オレにもちょーだいよ」
「ちょっとお待ちくださいね」

太夫は部屋の傍らにある箪笥から飴玉の入った瓶を持って来た。

中には色とりどりの、小さな飴玉。

「何色になさいます？」
「黄色いの」
「檸檬味ですね」

瓶の中から黄色い飴玉を取り出して、オレの口元に持って来る。

「お口、お開け下さいな」
「あーん」

コロン、と口の中を転がる檸檬味。

「太夫、おいで」

太夫の後頭部に手を添えて引き寄せて、口を少し開いて口付ける。

舌で飴玉を押し出し、太夫の口の中に入れると驚いたように「ん...」と小さく零す。

「一緒に舐めようよ」

太夫の口内に移った飴玉を、オレらは二人で転がし合った。

・

太夫を腕枕しながら、天井を眺める。

「太夫、ちょっと頼みがある」
「頼み？何でしょう？」
「あのさ...アイツ、連れて来てくんない？」

オレの申し出に一瞬、太夫は黙ったがすぐにオレの思惑を察したのか、起き上がり襦袢を羽織ると「お待ちくださいませ」と微笑み、部屋を出て行った。

暫くして戻って来た太夫の後ろには、困惑した表情の小町が立っていた。