空想フランシール４th 【ars S.S】 (ページ30)

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135.クッキー。ページ30

手元のカップでユラユラと揺れる褐色のコーヒーをボーッと見つめる。

ダイニングテーブルの真ん中には、俺が持ってきたクッキーが綺麗に皿に並べられてる。

同じように、リビングのお父さんの前にもコーヒーカップと5枚程度のクッキーが乗せられた小さな皿。

もちろん、お父さんはそのクッキーに手を付ける事は無くコーヒーを飲みながらテレビを見ている。

Aちゃんは、お母さんとキッチンで洗い物をしながら「もう少し、待ってて下さいね」と、俺に笑い掛けた。

俺は軽く微笑みながら頷いて、また手元のカップに目を落とす。

食器を洗うカチャカチャという音。

テレビ番組の無駄に明るい笑い声。

その音に隠すように、小さく息を吐き出した。

俺の前の席に座ったまま、身体を捻ってリビングのテレビを観てた太輔くんがこっちを向いてクッキーを一枚摘まむ。

「あ、コレ美味い」

パリッとクッキーを囓って、俺にニッと笑った。

「そう？良かった」
「うん、すげぇ美味い」

口をモグモグ動かしながら、太輔くんはキッチンに居るAちゃんとお母さんをチラ見する。

そのままリビングのお父さんの事もチラ見する。

どちらも俺らを見てない事を確認したのか、太輔くんが「ねぇ...」と小声で俺に呼び掛けた。

「ん？」
「あのさ、櫻井さんが大丈夫なら連絡先交換して欲しいなと思って」
「俺と？」
「もし良ければ」

ニコニコしながら、太輔くんは自分の傍に置いてたスマホを俺に見せる。

「うん、全然構わないよ」

太輔くんに俺は好感を持ったし、今日もし太輔くんが居なかったらと思うと...。

感謝しか無いくらいだ。

連絡先を交換すると太輔くんは「今度、呑みにでも行きましょ」と、コソコソ言った。

「そうだね」
「姉ちゃんの事で何か訊きたい事あったら、何でも教えたげるからね」
「本当に？楽しみだわ」

二人で小声でヒソヒソ笑い合ってるとAちゃんが俺の隣に戻ってきて「何の話？楽しそうだね」ってクッキーを摘まんだ。

「えー？このクッキー美味いねって話だよ。ね、櫻井さん」
「ん？あぁ、そうそう！」

Aちゃんは一口それを囓ると「ホントだ！」って笑う。

けど、リビングのお父さんに視線を移すとすぐに困った顔になってテーブルの下で俺の太ももにそっと手を乗せてきた。

俺も、その手に手を重ねて

Aちゃんの目を見て「クッキー、美味いでしょ？」って笑ってみせた。

そんな俺らを、太輔くんが柔らかく笑って見てた。