空想フランシール４th 【ars S.S】 (ページ29)

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134.無力。ページ29

夕飯できたよ、とまた太輔くんが呼びに来てくれてAちゃんと俺は一階に下りた。

ダイニングには、たくさんのおかず。

「私と違って、お母さんは料理上手だから安心して食べて下さいね」

Aちゃんが俺が座る椅子を引いてくれながら言う。

「姉ちゃんの料理って、料理じゃないもんね。あれは何？工作？」

俺の正面になる位置に座った太輔くんが、自分のグラスにビールを注ぎながらAちゃんをチラッと見る。

「これからお母さんに料理教えて貰うから良いの！」
「花嫁修業始めんの、おそっ！」

花嫁...太輔くんが冗談で言ったその言葉にきっと、この中で俺と斜め前に座ってるお父さんだけが心をざわめかせたんじゃないかと思う。

Aちゃんは、お母さんと一緒にご飯をよそったり一通り手伝ってから俺の隣に座った。

お母さんの料理は、本当に美味しくて食べるの大好きな俺としてはかなりの晩餐だった。

食事中、会話の中心はやっぱり太輔くんで、Aちゃんも時々喋って、お母さんはニコニコしてて

俺は太輔くんやAちゃんに話を振られたら、応えてた。

ただ、やっぱりお父さんとは全く目が合わない。

何度か、お父さんの方を見てはみたものの一切俺との視線は交わらない。

気付かない振りも出来ない位に。

Aちゃんが困ったように俺を見ても、大丈夫だよって顔で笑い返してあげるしか出来なくて...

もっと俺が、出来たオトコだったならって本気で情けなく思った。

ニノならあの話術で、人の心を掴むはず。

雅紀ならあの笑顔で、人の警戒を溶かすはず。

智くんならあの才能で、人の関心を寄せるはず。

潤ならあの優しさで、人の気持ちを癒すはず。

俺には、何も無いな...と、改めて思う。

「ねぇ、父さん！」

太輔くんが俺らに喋ってたのと同じテンションでお父さんに話し掛けた。

「櫻井さんに訊きたい事とかさ、無いの？娘の彼氏なんだしさ、言っておきたい事とか！」

その言葉に、お父さんが静かに俺を見た。

思わず箸を置いて、背筋を伸ばす。

ゴクン...と唾を飲み込んだの...聞こえちゃったかな...。

「...ご馳走様...」

お父さんはそう言うと、ダイニングから立ち上がりリビングのソファに座ってしまった。

その姿を目で追ってた俺に、太輔くんが顔の前に掌を立てて『ごめん！』って口パクする。

俺は、首を振って『大丈夫』って同じように口パクするしか

...出来なかった。