空想フランシール４th 【ars S.S】 (ページ2)

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107.欲しがり。ページ2

ケーキを揺らさないように、水平になるように気を付けながら紙袋を持って電車に乗って、Aちゃんちまでの道を歩く。

Aちゃんちのベランダを見上げると電気が点いてる。

それだけで、少しドキっとして頬が緩んだ。

「重症だわ...」

自分の乙女っぷりに苦笑い。

部屋の前でチャイムを押そうと手を伸ばした瞬間、ドアが開いた。

「わっ！...ビックリした」
「お帰りなさい、櫻井さん」
「うん、ただいま。何で来たの分かった？」
「そろそろ帰って来るかなー？って思ってベランダから見てたんです」

フフッと、Aちゃんは目を細める。

「え？でも、俺ベランダ見たよ？」
「そうなんですよ！櫻井さんが上を見たから...しゃがんで隠れちゃったんです」
「ハハッ！隠れる必要無いのに」
「何か...櫻井さんが向こうから歩いて来てるのずーっと見ててね、ドキドキしちゃって」

俺の腕にソっと触れて、ちょっと俯く。

「カッコイイなぁ...って思ってたら突然こっち見たからビックリしちゃって」

そう言って、ふわりと柔らかく抱き着いて来た。

「あ...コートまで冷たくなっちゃってますね」
「...う...うん...寒かった...からね」

噛みそう、こんな単純な言葉噛んじゃいそう。

寒いから舌が回らないんだよ？なんて言い訳すぐバレそうな位に心臓がバクバクしてる。

「あっためてあげます」

ギューっと俺を抱き締めて、胸に顔を埋める。

...可愛い。

すっごい可愛いのに。

すっごい可愛いのにっ！

俺、また両手塞がってんじゃん！

抱き締め返せないじゃん！

鞄もケーキもポイっと投げ出して抱き締め返したい！

「Aちゃん...？えっと...」
「あ、ちょっと欲しがり過ぎちゃいました」

クスっと笑うとAちゃんは俺から離れた。

「後でいっぱい欲しがってくれて構いませんので」
「フフッ...えっちですねぇ、櫻井さん」
「どっちが」
「お互い様って事で」

チュっと軽く口付けて、オデコを合わせて笑う。

もう俺、寒い中を歩いて来たなんて自分でも信じられない位、あっついわ。