PRESTO！【ars M.A】 (ページ34)

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34.おうち。ページ34

自転車を引いて歩くAちゃんの横を、ガラガラと音を立てながらスーツケースを引いて歩く。

さっきまで「ちょー重いんですけどー...」って思ってたスーツケースが今は全然重く感じないんだから、俺ってホント単純。

フランスでどんな買い付けしたのか...とか、観光はしたのか...とか、そんな話をしながら帰り道を歩いて

その内、いつも別れる曲がり角に着いた。

「...えっと、じゃあここで待ってたら良い？」
「え？ここ？」
「え？」
「あ、そっか。うちまで来るの面倒だもんね！うん、じゃあ私急いで帰って持ってくるね！」

あれ？

うちまで来る...あっ！

「うそうそっ！一緒に行く！」
「え？でも、無駄足になっちゃうよ？」
「ううん！Aちゃんこそ、ほら、行ったり来たりになっちゃうでしょ？」

一緒に行けばAちゃんの家、どこか分かるじゃん！

いや、家知ったからって突撃なんかしないけどさ...でもさ！
知りたいんだもん、色々。

「良いの？じゃあ、行こうか」

Aちゃんが笑って「こっちだよ」って前を指差す。

初めての道。
その道をほんの少し進んだ所にある、三階建のマンション。

「ここなの」

そう言ってAちゃんは、そのマンションの駐輪場に自転車を停めた。

「すぐ取って来るから、ちょっと待っててね！」
「うん、待ってる！」

階段を駆け上がって行く後姿、廊下を歩く横顔

部屋は二階の右から二番目なんだなぁ...突撃なんかしないけどね？

立てたスーツケースの上に座って、何となく落ち着かなくって空を見上げたり地面を睨んだり

「お待たせぇ」
「あっ...うわっ！」

肩を後ろからポンって叩かれて、バランス崩して俺はこけたしスーツケースもまた倒れた。

「ちょっ...雅紀くん大丈夫！？」
「大丈夫...」

もうさっきから俺、ちょー格好悪くない？

ちょっと情けなくって頭をガシガシって掻く。

そしたら、尻餅ついてる俺に

Aちゃんが手を差し伸べてくれた。

「あ...ありがと...」

ずっと見てた、綺麗な手。

その手をキュって握る。

Aちゃんは俺の手をキュって握り返してくれて、グイって引っ張り起こしてくれた。

「大丈夫？」
「うん...大丈夫」
「痛くない？お尻」
「うん、お尻は痛くないよ...」

けど何か、胸が痛いよ。

ドキドキし過ぎて、ギューって心臓が縮む。

女の子と手を繋ぐなんて、もう何千回、何万回ってしてるはずなのに...

相手が好きな子だと、こんなに特別な事なんだな。