PRESTO！【ars M.A】 (ページ33)

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33.膨らむ期待。ページ33

「あれ、雅紀くん旅行帰り？」
「えっ？ううん、出張帰り！」
「へぇ！お疲れ様です」

Aちゃんは跨ってた自転車から降りて、俺と向き合った。

「Aちゃんは今まで仕事だったの？」
「うん、そう。だから眠たくって...」

フワァと、アクビをする口元を手で隠して目の端に少し涙が浮かぶのが

何か可愛くって、朝からちょっと刺激強い。

「あ...そうだ、Aちゃん！」
「ん？」

俺は背負ってたリュックを下ろして、その中に入れてた例のチョコレートを出した。

袋が少しシワになっちゃってるのに気付いて「手持ちにしとけば良かったー」って後悔。

「あの...これ、良かったら」
「えっ？これ...」
「Aちゃんが前に好きって言ってたお店の本店あったから...さ！」

パーッて笑顔がAちゃんに広がって「本当に！？」って、すっごく嬉しそうに言ってくれて

もうそんだけで、何か大満足。

バレンタインだからって言いそびれたけど...まぁいいか...。

「雅紀くん、フランス行ってたの？」
「うん、買い付けでね」
「凄い...フランス語喋れるの？」
「言葉はハートだよねぇ」
「あ、喋れないんだね」

俺があげたチョコレートが入った袋を大切そうに抱き締めながら、Aちゃんが笑う。

「あっ！ねぇ、雅紀くん」
「ん？」
「今、ちょっとだけ時間ある？」
「...え？」

何...？
何何何っ！？

「あー...けど疲れてるよね？また今度でも良いんだけど...」
「大丈夫っ！疲れてないよっ！時間、あるあるっ！」
「本当？じゃあ、帰り際にうち寄って貰っても良いかな？」
「うち...？」

うち...

うちっ！？

「えっ、うちっ...あっ！」

Aちゃんの言葉に焦って一歩下がったら置いてたスーツケースにぶつかっちゃって、バターンって大きな音を立ててそれが倒れた。

「えっ！雅紀くん、大丈夫！？傷とか...」
「いや、え、大丈夫...」

元々傷だらけだし...って、スーツケースを起こしながらチラッとAちゃんを見る。

「うち...って？」
「あっ！あのね、雅紀くんに渡したい物があって...」

Aちゃんは「部屋に取りに行くから、マンションの下で待ってて欲しくて」って自転車のスタンドを倒した。

「あ...下で...」

そりゃそーだよね。

そりゃそーだよ。

だけど...

「えっ！？渡したい物...！？俺にっ！？」
「うん」

それって、それって...

期待しても良いの？

だって今日って...

期待するなって言う方が難しい話だと思うんだ。