アイドラッグ【ars K.N】 (ページ8)

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ザワザワ

教室は相変わらずザワついてる。

誰も私と和也の会話の内容には気付いて無い。

私達がこうやって話してるのはもう日常茶飯事だから、気にもされてない。

「A」
「はい...」
「ねぇちゃんと意味分かったの？」
「......」
「分かんないのー？何なの、馬鹿なの？」
「馬鹿じゃ無いし！」

和也の腕を叩こうとしたら、その手首をギュっと握られた。

「もっと一緒に居たいんだけど」

何も言えない。

「もっと幸せ気分に浸らせてよ」

目を逸らせない。

「もっとオレに、麻薬作らせろ」

ドキドキしてるのにその台詞がおかしくて、ちょっと笑っちゃう。

笑った私に「ね？A」って優しく微笑むと

「オレと付き合うでしょ？」

和也は、決まりきった事のように言ったんだ。

「え...付き合う...って...」
「お付き合いだけど。交際」
「私と和也が...？」
「他に誰が居んのよ」

私は和也が好きで

好きで、好きで仕方無くて

だけど、名前を呼んで貰えるだけで良いって思ってて、それ以上なんて考えられなくて

『和也を好き』ってだけで、幼い私の想いは完結してて

「付き合うって...何すんの...？」

好き、の先にあるコトがいまいちピンと来ない。

「んー、そうだなぁ。一緒に喋ったりー、帰ったりー、あ、デートもすっか」
「デート？」
「うん」
「ねぇこないだの日曜日、一緒に本屋さん行ったよね。あれはデートだった？」
「オレはデート気分だったけど」
「...今までと何か違うの？付き合うのって...」

やっぱりピンと来なくって。

そんな私に向かって、和也はムフって笑って

「彼女だから出来るコトもあるよ？」

なんて、ちょっとえっちな表情で言った。

「やだっ！そんなコト考えてるなら、やだっ！」
「えっ！？そんなコトって何よ！考えるでしょうが！思春期男子なんだから！」
「やだっ！やだっ！」
「やだって言うな！ちょっと傷付くだろ！」

騒ぎ出した私達を見て、さすがにクラスメイト達も「アイツら、また喧嘩してる」って呆れて笑い始めた。

そうだよ、私達はいつだってワーワーしてて

和也とずっとこうして笑ってたいって思ってるけど...でも...

恐る恐る和也の目を見たら

「やだ...って、言わないでよ...」

さっきまで威勢が良かった和也が、視線を落とし唇を噛んだ。

「Aはそんなにオレの事、やだ？」

その時

産まれて初めて自分にも母性本能なんて立派な物があった事を、知った。