アイドラッグ【ars K.N】 (ページ22)

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「......え？」
「行きたい学部のある大学、見付けたんだ」
「うん...え...？」
「オレ、東京に行きたい」

夏休みを控えたある日の放課後。

ファーストフード店に寄り道した時、和也はポテトを一本口に運びながら、言った。

「東京...」
「うん。東京」

私はシェイクのストローを口に咥えたまま、「...東京...」と呟く。

口の中はバニラの味がして甘いのに、心は重くてニガイ。

心臓が突然バクバクし始めて、シクシク痛い。

私達は、そんなに都会でも無い、でも田舎って訳でも無い東京からちょっとだけ離れた町に住んでいた。

だけど別に東京に出なくても、いくつか大学はある。

私は地元を出る必要の無い大学への受験を決めてて、和也もきっとそーするもんだと信じて疑ってなかった。

「和也...、東京行っちゃうの...？」
「ん。受かったらー、だけどね」
「そ...なんだ...」
「受験勉強、頑張らなきゃなぁ。あ、そうだ。オレさ、予備校の夏期講習、申し込んだの」
「...そ、なんだ...そっか...」

自分だって受験勉強しなきゃいけないんだけど、和也が一人で勝手に講習に申し込んでしまった事が寂しかった。
一緒に通いたかったのに...。

本当は東京になんて、行って欲しくない。

ずっと私のそばに居て欲しい。

何事も無かったようにポテトを食べ続けてる和也に『やだ』って言いたかったけど、和也は『やだ』がキライだから

私は

「...頑張ってね！」

精一杯の嘘をついた。

「応援してるよ」って言ったけど、本当は「受からないで」って祈ってたなんて言ったら、貴方は怒る？

合格したって報告された時「おめでとう！」って言ったけど本当はガッカリしてたんだなんて言ったら、貴方は呆れる？

実は私も東京について行きたくてお父さんに直談判したけど、お父さんを納得させられる『東京に行きたい理由』が見付けられなくて反対されたって言ったら、貴方は笑う？

「離ればなれになっても、オレ達は何も変わらないって。毎日連絡するし、会いにも来るよ。東京なんて、そんな遠くじゃないしさ」

和也のその言葉は、きっと本気だったんだと思う。

今になれば、そう思える。

だけど、あの頃の私には真っ直ぐ届いて来なかった。

和也が優しい言葉をくれればくれる程、辛くて、苦しくて、悲しくて

いつだって耳を塞ぎたくなってたんだ。

大好きな人と離れる春なんて、永遠に来なければ良いと願った。

日に日に暖かくなる空気を、呪いたくなった。