極楽ハニー 9th【ars K.N】 (ページ19)

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296.トランク。ページ19

気休めだったはずのてるてる坊主は、しっかり働いてくれた。

沖縄出発の日はちゃんと晴れてて、私はスーツケースを引っ張って空港に向かった。

機能性よりもデザインで選んだ革のスーツケースは、多分『トランク』って呼ぶ方が似合う気がする物で、中身入れて無くてもそれだけで重いんだけどお気に入り。
コマも２つしか付いてないからたま引っ掛かってガクンってなるんだけど、手の掛かる物ほど可愛いと言うか。

いつもの踵の高い靴は履かずに、普段ニノミヤが履いてるようなハイカットスニーカーを履いて(って言うか、この日の為に買っちゃったりして)

初めてニノミヤんちに泊まった日に、相葉さんのお店で選んで貰ったカジュアルなワンピースにあっちは暖かいだろうからスタジャンと、こっちはまだ寒いから首にはグルグルストール。

若作りしすぎかなー...って思いつつ、「旅行だから良いでしょ！」なんてすぐに気持ちは切り替わる。

コロコロとスーツケースを引っ張りながら空港の中を歩き、彼の姿を探す。

今ってスマホで連絡取れるから待ち合わせの場所ってしっかり決めて無くてもどうにかなる。
「着いたら連絡して」で、ちゃんと会える。

だからニノミヤがどの辺に居るかは分かって無くて、でもちょっと探してみたくて。

少しだけゲーム気分で、キョロキョロとしてみた。

「...あ」

暫くウロウロして見付けた彼は、別に派手な事をしてる訳じゃないのに目立ってた。

目立ってたのは、私がニノミヤを好きだから...なだけな気もするけど。
だって、好きな人ってどんな人混みの中でもその人だけ浮き上ってるようにすぐ見付けられるモノだから。

やっぱり沖縄での天候を優先してるのか、春先っぽい薄着に彼もマフラーを巻いて

スーツケースに腰掛けて、スマホで多分あれはゲームしてる。

そしてニノミヤのお尻が乗っかってるそのスーツケースは、私と同じような『トランク』。

彼なら絶対に機能性を重視して、シンプルな黒いヤツとかだと思ったのに。

ゲームで失敗でもしたのか、口を開けて目を閉じ突然天を仰いだニノミヤが

顔を下げて目を開けた瞬間、やっと私に気付いた。

「あ、おはよ。A」
「おはよ、カズ」
「よく寝れた？」
「んー...あんまり」
「遠足の前の感じでしょ？ンフフ、オレも」

あんま寝てないわ、って笑うとニノミヤはスマホをポケットに入れ可愛い『トランク』からピョンと下りて

「行きますか」

私の手と自分のスーツケースを引いて、歩き出した。