極楽ハニー 10th【ars K.N】 (ページ14)

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329.HONEY。ページ14

抱き締めてる腕の力をゆるっと緩めて、ニノミヤが私の顔を覗き込む。

「化粧、ボロボロ！
「ヤバい...」
「Aはどーなってても可愛いよ」
「そーゆー嘘は、人の為にならないよ...」
「よし。化粧直し、しとこっか」

フハハッ！って、笑いながら私の頬を両手で挟み込んで「泣き止んだ？」って、優しく問うた。

「うん...何とか...」

私が言うと、うんうん、って頷いて私の目尻をキュッと親指で拭う。

向かい合って床に座り込んでると忘れそうになるけど、あぁ、ここ会社だってば...って思い出してソワソワする。

「...カズ...仕事戻らなきゃ...」
「あー...もうちょい余韻欲しいんだけど」
「だって会社だし...」
「だからオレは、良い感じの場所でプロポーズしたかったのにー」

ニノミヤがブゥ、って子供みたいに唇を尖らせた。

「沖縄でしょー、キリンでしょー、ほら。オレ、すっげぇロケーション良いトコで求婚してたのにー」
「だから...分かりにくかったんだってば...」
「『言葉の魔術師』の名が泣くわー。全然魔術かけれて無かったってー」
「だからそれ、誰が言ってるの？」

クスクス笑うと、彼も笑った。

「名残惜しいけど、仕事戻るか」
「ん」

立ち上がったニノミヤが、両手を引っ張り立たせてくれる。

先に歩いて行く彼の後ろ姿を見ながら、そう言えばさっき何を入れられたんだろ...ってポケットの中に手を入れると

小さな筒状の物が手に触れた。

そのまま摘んで出して、その小さなケースを開く。

「...え...え、カズ...」
「ん？」
「これ...って...？」
「あぁ、ンフフ。すぐに必要になるでしょ？」
「......」
「オレが使ってたやつだけど、とりあえずAにあげ...って、また泣いてる！」

立ち止まってる私の元に戻って来て、「よしよし」って笑いながら頭を撫でた。

私の手の中に『二宮』って彫られた、印鑑。

キザだよ！バーカ！って言ってやりたいのに！

私の口から出たのは声にもなってない、ヒーンって情けない泣き声。

「どーする？二宮Aだってさ」
「...嬉しいー...」
「うっわ、可愛い！」
「......」
「この子を『オレの奥さん』って言って良いんだ。ンフフ、ヤバいね」

はにかむように笑ったニノミヤの耳は、やっぱり真っ赤。

トキメく。
トキメいて心がギュウって喜ぶ。

もう、何度目だか分からない『トキメキ』は

あの日感じた『コイゴコロ』を、一生モノにしてくれた。

・・・『極楽ハニー』END・・・