極楽ハニー【ars K.N】 (ページ31)

今日:11 hit、昨日:58 hit、合計:1,945,018 hit

31.ズルイオトコ。ページ31

「さぁっみ！！」

会社を出た瞬間、ビル街特有の突風が吹きニノミヤがフラリとよろける。

「うぅー...飛ばされる...」
「ニノミヤ、本当に飛ばされそうだね」
「それ、友達にも言われたわ」

グルグル巻きのマフラーを鼻まで上げて目だけしか見えないニノミヤの目線が私に向いた。

両手をコートのポケットに突っ込んで少し猫背に歩く。
風が、ニノミヤの柔らかそうな髪をフワっと靡かせる。

「ニノミヤんちって、そんなにここから近いの？」
「んー。家決める第一条件が会社から徒歩圏内だったの」
「通勤ラッシュに巻き込まれたくないって感じ？」
「そうっ！まさにそれよ！」

大学ん時に実家から通ってて毎朝すし詰めだったのがトラウマ、ってフフッと笑った目元が緩くなった。

涙袋がふっくらして...何だよ、女の子より可愛いとかズルい。

１０分程度歩いた時に、「あれ」とニノミヤがちょっと先にあるタワーマンションを指差した。

「あれに住んでんの！？」
「あれに住んでんの」

すっごいトコ住んでる、コイツ...。

どんだけ給料貰ってんの...あ、ボーナスが凄いのか...さては、査定が良いんだな。
まぁ貰っても良い位に仕事出来る人だけども...

私がそんな下世話な事を考えてると

「駐車場は地下ねー」

真下から見ると更に圧倒される建物に、ニノミヤが入って行く。

当たり前にオートロックの入り口にピッと鍵をかざして、ホテルのようなロビーに四基もあるエレベーターの一基に乗り込む。

地下の駐車場で、いつか見た黒い車にニノミヤがキーを向けた。

そして、当たり前のように自分が車に乗り込む前に助手席のドアを開いて「どうぞ」って言ってくれる。

こんな事、自然に出来る男が居るなんて知らなかった。

「ありがと...」
「いいえぇ」

パタン、と静かにドアを閉められ運転席にニノミヤが乗り込んでくるまでに「フゥゥゥ．．．」って大きく息を吐き出す。

ドキドキして、息が苦しい。

すぐに乗り込んで来たニノミヤは、唇に煙草を挟んでる。

「行きまふか」
「ちゃんと喋れてないって」
「ンフフ」

他愛も無い話をしながら走る街。

綺麗なイルミネーションに心が躍ったのなんて、何年振り？

うちに着き、私が車を下りようとした時

「センパイ」
「ん？」
「メリークリスマス！って、言ってなかったね」

不意打ちだ。ズルい。

「もう26日だから一番季節外れな言葉だけど」
「...だね」

やっぱり私はこのズルイオトコが、好きで、悔しい。