極楽ハニー【ars K.N】 (ページ32)

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32.特権。ページ32

年始、ちょっとした後悔と共に私は会社に居た。

この歳になった独身女子が実家に帰ると言われる事なんて、そりゃもう当然に同じことで

「結婚しないの？」
「良い人はいないの？」
「もう若くないんだから」

こんなセリフ、思いっきり想定内なんだけどやっぱり言われると苛立つ訳で...

しかも、今年は運が悪かった。

10歳年下の従妹が結婚するらしい。

その報告会も兼ねてたらしく、正月の実家には親戚一同が集合。

そんなコト何も知らされてないまんま帰った私は、集まった身内特有の遠慮が無い親戚達の中に放り込まれた。

「Aちゃんに、良いお話があるの！」

なんて、テレビでしかお目に掛かった事の無い『お見合い写真』なる物を叔母に見せられ、言葉を失くし

「...結婚相手は自分で決めますから...近い内には...」

なんて、どう考えても今の私には出来ないような約束をしてしまい

従妹の結婚式の日取りなんかを憂鬱な気分で聞きながら、「来年は絶対に帰ってくるもんか」と心に決めた。

「...はぁぁ...やっぱ帰らなきゃ良かった...」

狭い喫煙室で、ポーチから煙草を出しながら溜息を吐く。

喫煙者ってだけで、こんな所に隔離されて

私は『独身女子+喫煙者』ってゆーダブルパンチの居心地悪さを、痛い程に感じてた。

「...あれ...？」

口に煙草を咥えたまま、カチッカチッと何回ライターを点けようとしても火花が小さく散るだけで火が点かない。

あー...そうだ...今朝そろそろ無くなるからライター買わなきゃって思ったのに忘れてた...

「ついてない...」

煙草を唇から離しながら、呟く。

もう煙草も辞めようかな...。

男受けも良くない上に、肩身も狭いし、お金もかかる。

あ、ほら、辞めたら煙草に使ってたお金で新しいパンプスも買えるし。

「そうだな、そうしよ」

ウンウン、と一人で頷いてると

「あ、センパイ」

手に煙草を持ったニノミヤが喫煙室に入って来た。

「ンフフ、何か疲れてんね」
「...まぁね」
「正月ボケ？」
「ボケた訳じゃないけど...お正月で疲れたのは間違い無いかな」

ふぅん、って呟きながらポケットから出したライターでニノミヤは咥えた煙草に火を点ける。

少し口を尖らせ、顎を上げて煙たそうに眉を顰めて紫煙を吐き出す横顔が、綺麗。

煙草を挟んでる指先が、色っぽい。

肩身の狭い喫煙者だけど、ニノミヤのこの姿が会社で見れるのはここだけなんだ...って思うとそれは凄い特権な気も、する。