極楽ハニー【ars K.N】 (ページ3)

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3.喫煙所。ページ3

「すっげぇご近所さん！まさかだったわ」
「...その台詞、そのままお返しします」
「フハハッ！まぁ、よろしくね？センパイ」
「センパイって...ここではアナタの方が先輩でしょ...」

異動したオフィス。

私のデスクの真後ろがニノミヤだった。

背中合わせになる席で、彼はコロコロとキャスター付の椅子で滑って来て私の隣に並んで「分かんないコトあったら訊いてよ、セーンパイ」って笑う。

三歳も年下で後輩なのに、生意気で

部署は違っても私には彼より三年も長く働いてたってゆープライドもあるし「絶対にニノミヤには頼ったりしない！」ってその時決めた。

私はやれる。

やれるに決まってる。

だって、30歳を過ぎる今まで仕事一筋にやって来たんだから。

そう自分に言い聞かせて、ニノミヤから目を逸らした。

・

だけど、やっぱり慣れない仕事はストレスだらけで

そのストレスをお酒や食べ物に向けたら太る！って思った私は、煙草を吸うようになった。

学生時代に好奇心と『ちょっと格好良い気がする』とか思って吸い始めたけど、社会人になった瞬間『男受け悪い気がする』って思ってすぐ辞めた、煙草。

もう二度と吸う事は無いと思ってたのに、ホント人生って何があるか分かんない。

フワっと口から紫煙を吐き出して、誰も居ない喫煙所で溜息も一緒に吐き出す。

「お邪魔しまーす」
「あ...」
「センパイ、一人？」
「見れば分かると思うけど」

喫煙所にフラっと入って来たニノミヤは「そりゃそーだわ」って笑いながら、胸ポケットから煙草を出して口に咥えた。

「...ん...？...ん...？」

身体の色んな所をポスポスと叩きながらニノミヤが首を傾げる。

「どうしたの？」
「火...」
「ライター無い？」

私が訊くと、コクンと頷く。

「使う？」

煙草ケースと重ねて置いてたライターをニノミヤに差し出すと、「んっ」と煙草を挟んだ唇を私に突き出して来た。

「...何...」
「ふけてよ」
「喋れてないし」
「ふけて」

だから咥えてる煙草のせいでちゃんと喋れてないって...って思いながらも、その煙草の先に火を点けてあげると

スーっと吸い込んだ煙をフッて吐き出した後

「ありがと」

って、微笑む。

その顔で、女の子も大物作家も自由自在に手玉に取るんでしょ？

この部署に異動してから、どんな大物作家もニノミヤの言う事には従うってのを噂じゃ無く目の当たりにしてる私は

いじけたような気持ちで、ニノミヤを見た。