極楽ハニー【ars K.N】 (ページ15)

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15.イヤナオンナ。ページ15

『吊り橋効果』ってのがある。

異性と一緒に吊り橋を渡ると吊り橋にドキドキしてる気持ちを相手に恋してるドキドキなんだと脳が勘違いしてしまう、ってヤツ。

もしかして私の恋心はそれだったのかなぁ...なんて思ったりもした。

あんな怖い想いをしてる所にニノミヤが現れたから、だからドキドキしたのかなぁ...って。

だけど、私の胸はそれからもニノミヤを見ればドキっとしちゃって

喫煙所で一緒になれば、嬉しくて

女の子と楽しそうに喋ってるのを見たら、...悔しくて

そんな感じだから、今までなら聞き流してたようなニノミヤの『テクニシャンらしいよ』系の噂が気になって仕方なくなってしまう。

「ねぇねぇ二宮さんのえっちって、クセになるらしいよ！」
「クセになるえっちー！気になるー！」
「どんなえっちなの！？」
「あのね聞いた話なんだけど...」

食堂で近くに座ってた着飾ってる数名の女子社員、多分ファッション誌のエディター達がとんでもない事を話し始めたから必死で聞き耳立ててたら、肝心な部分から内緒話になってしまった。

一番聞たい所隠すなよっ！
『クセになるえっち』って、何その女性誌の表紙に書いてありそうな言葉！
一体ニノミヤどんだけ女の子と関係持ってるのよ！
女ったらし！節操無し！

「コロッケが痛そう」
「っ！？」
「穴だらけ」
「ニノ...ミ...」

苛立ちに任せてザクザクとコロッケにお箸を挿してた私の前に、ニノミヤがストンと座った。

「なに、何かイライラしてんの？」

アンタだよ、アンタ！
アンタの事で、勝手に苛立ってんの！

「別に...」
「あー、オンナノコの日か！」
「...アンタそれ、セクハラだからね？」
「そのスプラッタなコロッケ一口ちょーだい」

ニノミヤは自分の前にあるハンバーグ定食に手を付ける前に、私の無残なコロッケにお箸を伸ばして来た。

「んま」
「自分のモン食べれば？」
「人が食ってるモンって旨そうに見えるんだもん」

コロッケが入ってる片方のほっぺをプクっと膨らませたニノミヤが、ニコっと笑う。

さっきまで『クセになるえっち』だとか言ってた女子達が「可愛いー！」って小さく騒いでるのが見える。

それを見て...優越感を持っちゃう私は嫌な女なのかな。

「オレのハンバーグ食う？」

ニノミヤがお箸に小さく切ったハンバーグを挟んで「ほれ、あーん」って私に向ける。

「は？」
「ンフフ、どうぞ」

私のお皿の端っこにそのハンバーグを置いて、ニノミヤはお味噌汁を啜った。