明日の天気の話をしよう 7th【ars】 (ページ21)

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231.サプライズ。ページ21

ランディナだった私は、ディナーが落ち着く頃に仕事の終わりが来る。

平日だしそんなに忙しくも無くって、レジに立ってる相葉くんが大あくびしたのをミワちゃんと見て笑ったり

常連のおじさんから、旅行のお土産だってスタッフに温泉饅頭を貰ってウハウハしたりしてたら終業の時間が来た。

「相葉くん、私そろそろ上がるけど何かやっとく事ある？」

お客さんを見送る彼の深々としたお辞儀が終わるのを待って、声を掛ける。

「あー、もう大丈夫！後はディナースタッフに任せるから。お疲れ様！」
「何か相葉くんってば、すっかり社員さんっぽいねー？」

肘で相葉くんの腕をグリグリすると「まだまだデスよー」ってグリグリし返された。

「じゃ、お疲れ様でーす」
「あ、Aちゃん」
「ん？何？」
「こないださぁ、俺が言おうとしたコトあるでしょ？」
「...あぁ！どうせすぐ分かるから、ってヤツ？」
「うん。それそれ」

ほっぺを人差し指でポリっと掻いた相葉くんが「実はさぁ...」って言ったと思ったら

店のドアが開いた。

一瞬聴こえる、外の雑踏

それはドアが閉まると、すぐに消える。

店に流れるジャズと、お客様やスタッフの喋る声

その中に

「お疲れ、久し振り」

ずっと聴いてなかった、でも何度も何度も聴いてた声が混ざった。

耳が覚えてるんだ、って思った。

「......櫻井さん...？」

東京さみぃなー！って言いながら近付いて来たのは、間違い無く櫻井さんで

「A、元気だった？」
「...櫻井さんだ...」
「フフッ、何だよ。櫻井さんですよ？」

眉を下げて笑うのも、櫻井さんで間違い無くて、見間違いなんかじゃ無い。

「雅紀、言ってなかったの？俺がこっちに出張して来る事」
「あー...サプライズにしよっかなー？なんて思ってさ」
「俺なんかでサプライズになるかよー！」

アハハッ、て朗らかな笑い声が懐かしくて堪らない。

「さっきまで本社行ってたんだけど、久々桜の様子見に行っとこうかなー？と思って。寄ってみた」
「そうだったんですか」
「どう？雅紀はシッカリやってる？」
「はい。意外にもやってます！」

相葉くんが「意外って何ー！」って言ってるけど、「意外にも」ってもう一度言うと櫻井さんはまた可笑しそうに笑った。

「Aってもう上がり？」
「はい、そうですけど...」
「じゃあさ、ちょっと良い？着替えておいでよ、外で待ってる」

櫻井さんが、立てた親指を後ろに向けてクイっと動かした。