明日の天気の話をしよう 7th【ars】 (ページ3)

今日:5 hit、昨日:1 hit、合計:1,297,297 hit

213.忘れるには。ページ3

ディナーのアイドルタイムが終わると、店は少し落ち着いた。

レジに立って案内係をしてる相葉くんの所に、セッティングできてる席を伝えに行く。

「C卓、全部セッティング出来てるよ。あと、B2卓も大丈夫」
「うん、ありがと」

チラッと私を見て頷くと、相葉くんは広げてたノートに目を落として明日の予約を確認する。

サラッと落ちた前髪を耳に掛け、ノートに赤ペンでチェックを入れて「Aちゃん、明日のこの御予約なんだけど...」って業務連絡。

ふと、櫻井さんを思い出した。

これまで、こーゆーやり取りをしてたのは櫻井さんだったから。

「Aちゃん、聞いてる？」
「えっ？...あぁ、うん。ごめんね」

相葉くんが、ちょっと困ったように微笑む。
たまに見せるその表情は、彼の優しさが滲み出てる気がする。

「そんで、明日なんだけどね」
「うんうん」

業務連絡の続きを暫く話してると、ミワちゃんがホールから走って来た。

「あっ！お話中、すみません！」
「どうしたの？」
「お客様がライター無いか...って仰ってて...」

ミワちゃんがそこまで言うと、相葉くんがレジの下の引き出しを開けて店名の入ったマッチを出した。

「ミワちゃん、このマッチをお渡ししてくれるかな」
「あっ...はい！」
「ライターが無いって事はお詫びしてね」
「はい、分かりました！」

相葉くんが差し出してるマッチをミワちゃんが受け取ろうと近付いて手を伸ばす。

でも受け取った瞬間、マッチはミワちゃんの手から滑り落ちた。

「あぁっ！ごめんなさい！」
「俺が離すタイミング早かったね！ごめんごめん」

レジから出て来て相葉くんがマッチを拾い、ミワちゃんに渡す。
今度はちゃんとミワちゃんの手の中に収まるマッチ。

「あっ...えっと...行って来ます！」

何故かシュパッと手を挙げて、クルンと回れ右して走って行くミワちゃん。

「フフッ、何か可愛いねぇ。ミワちゃん」

その後ろ姿を見て、相葉くんがクスッと笑った。

「相葉くーん、失恋を忘れるには新しい恋だって言うよね」
「えー？それ、Aちゃんもでしょ？」
「えー？」
「恋のお相手は、意外と近くに居るんじゃなーいの？」
「えっ！？」

勢い良く相葉くんを見上げてしまう。

同時に、あの小悪魔スマイルも思い出してしまって振り払うように頭をブンブン振る。

「い...居ないよ...！？」
「そう？」
「居ないよ...？」

相葉くんは「そうかなー」って、目尻に皺を寄せて笑った。