明日の天気の話をしよう 7th【ars】 (ページ12)

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222.感謝する意味。ページ12

私はパスタ、二宮くんはハンバーグのワンプレートを食べて食後にコーヒーを貰った。

「旨かったー。また来よっと」
「クロも気に入ってるみたいだね」

足元のクロは、落ち着いてる様子でスヤスヤ寝てる。

そんなクロを見て二宮くんが微笑んだ。

「良い店教えてくれてありがと」
「いえいえ」
「Aってこーゆーコト、詳しいの？」
「んー、好きなんだよね。前、カフェで働いてたし」
「へー、そうなんだ」

コーヒーカップに口を付けて、目線だけを私に寄越す。

何となく、私もコーヒーを飲んで「おいし...」って独り言。

「どこの店？」
「え？」
「Aが働いてた店。どんなトコで働いてたのかなーと思って」
「あー...もう無いんだよねー...」

ひっさびさに思い出したぞ、あの忌々しき事件。

「閉店？」
「そう。社長が夜逃げ！信じられないでしょ？私、バイトからそのまま社員になる予定だったのにお店潰れたから勿論就職も無しになってさぁ...」
「フハハッ！超災難じゃん！」
「呪ったよー、かなり。あの社長、机の角に脚の小指ぶつけてしまえ...とか、毎日考えてた！」
「呪いが地味だわ！」

二宮くんがケラケラ笑う。

「笑い事じゃないよー。短大出たら家も出るって約束もしてたし...」
「あぁ、それで無職だと金が無いから親戚の家を間借りしてんのか」
「そう！え？間借りしてるって私、そんな話したっけ？」
「したわ。いつだっけなー...あ、クロを探して潤くんトコ行った時だ」

言われても思い出せないくらいのコト。

「Aは就職が駄目になったからロマドー来たの？」
「うん、そう。それまでは全然知らない町だったもん」
「ふーん」

頬杖をついた彼が「じゃあオレはその夜逃げ社長に感謝だな」って、口角をユルっと上げた。

「感謝...？」
「うん。金一封でもあげたい位だわ」
「私が社長から金一封欲しい位なんだけど、慰謝料で。だって、無職になりかけたんだよ？」
「何言ってんのよ。お前、無職になりかけたからロマドーに来たんでしょ？」
「うん。だから、そう言ってるでしょ？」
「だから、オレは夜逃げ社長に感謝するって言ってんの」

二宮くんは相変わらず、ゆるーく口角を上げたまま。

「......何...言ってんですか...」
「あ、意味分かった？」
「......」
「出会うキッカケになってくれたかんね」

告白を聞かなかった事にしろとか、言わなかった事にするとか

なのにこんな事言ったりとか

何なんだ、もう。もう、何なんだ。