明日の天気の話をしよう 6th【ars】 (ページ4)

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179.お似合い。ページ4

「実はね、前に働いてた会社の先輩が独立するんだけど...」

綺麗に髪をまとめた静香さんが、自分のロッカーにコームを片付けて扉をパタンと閉める。

「誘われたの、一緒にやらない？って。業種もやりたかった仕事だし、やってみたいなと思ってね」
「そうなんですか...」
「タイミングとか私の気持ちとか、全部今なんだろうな！って」

清々しい表情の静香さんが、綺麗にグロスで彩られた唇をキュッと上げた。

「翔さんに会った時に、『やるじゃん！』って思わせたいの」

向上心の塊のような櫻井さんの彼女は、やっぱり向上心の塊のような人で

私は、今だに夜逃げ社長を地味に恨んでるだけで何もしてない。

「その会社が上手く行く保証なんてどこにも無いし、不安もいっぱいだけどね」
「......」
「でも、頑張りたいなと思った」

桜を辞めて櫻井さんを追い掛けるんだろー...って、単純に考えてた自分を恥じた。

静香さんがこんな人だから、櫻井さんは彼女の告白を受け入れたんだ。
もしかすると、櫻井さんだってずっと静香さんを好きだったのかもしれない。

「静香さん...」
「何？」
「お似合いだと思います。静香さんと......櫻井さん」
「えっ！？」

私の言葉に目を丸くして、赤くなり

「ありがと」

短くそう言った彼女は、少女みたいだった。

「Aちゃん、おはよー」
「あ、相葉くん。おはよ」

ホールに出ると、相葉くんも出勤してた。
サロンの紐を結びながら、私の後ろから来た静香さんに視線を移す。

「おはよう、雅紀くん」
「おはよ」

相葉くんが目尻に皺を寄せて微笑んだ。

穏やかに、優しげに。

「相葉くん」

朝礼終わりで、相葉くんを呼び止める。

「んー？」
「あの、さ...静香さんが桜辞める理由...」
「...あー...聞いた？」
「うん...」

相葉くんが、悲しげに笑う。
さっきの笑顔とは、また違う。

「敵わないよね。翔ちゃんだから、あんな風に静香さんから想って貰えるんだもん」
「私も...静香さんはあんな人だから、櫻井さんの彼女なんだなって思った」

2人で、レジに立ってる静香さんを見ると、視線に気付いた彼女が「何？」って不思議そうに首を傾げた。

「静香さんは今日も綺麗だなって話してたの！」

相葉くんが言うと

「冗談は良いから、早く働きなさい！」

静香さんは、呆れたように笑った。

「冗談、か...」

フフッと小さく笑った相葉くんが、私をチラッと見て

「冗談にしなきゃね」

そう、呟いた。