明日の天気の話をしよう 5th【ars】 (ページ9)

今日:3 hit、昨日:9 hit、合計:945,163 hit

149.冷える。ページ9

失恋したんだ、ってゆー実感は

もしかすると、自分の中でちゃんと整理が出来なきゃ出て来ない物なのかなと思う。

私はその日のディナーで櫻井さんに会っても、辛いとか思わなくて

むしろ、やっぱりその姿を追い掛けてしまう癖が抜けてなかった。

静香さんが居なかったからなのかもしれないな、と思ったけど
翌日、静香さんが一緒にシフトに入ってても意外と何も感じなかった。

二人はあまりにも普通で、今までと何も変わり無くて付き合ってるだなんて思えなかったからかもしれない。

ただ、相葉くんは二人を見て時々辛そうに眉を顰める。
コッソリ、溜息を吐き出してるのも何度も見た。

そんな相葉くんに比べると、私は心が無いのかなと本気で思ってしまう程だった。

・

櫻井さんの大阪行きが来週に迫ったある日。

送別会が行われた。

ロマドーの朝までやってる居酒屋さんの大広間を貸し切って、桜の営業後である深夜から始まったその会は、和やかに進んでたんだけど

静香さんがみんなにドリンクのお代わりオーダーを聞いて回って、櫻井さんの後ろから「翔さんはビールで良い？」って聞いた時

あるスタッフが突然大声で言った。

「俺さ！見ちゃったんだけど！」

「何を？」と、櫻井さんは不思議そうな顔をする。
静香さんはちょっとだけ、表情が強張った。

「櫻井マネージャーと静香ちゃんが二人で居るトコ！」
「あ！私も見た事ある！えっ！？そうなの！？」
「マジで！？」

誰もが興味津々って雰囲気で騒がしくなった中、私は全身の温度がどんどん下がって行くような感覚になった。

みんな笑ってるのに、全然笑えなくって
でも笑わなきゃおかしく思われる！って思って、必死で頬を掌でグリグリと押してみる。

...ダメだ、上手く笑えない。

そう思って壁に凭れ、ハァ...と溜息を吐き出した私の隣に相葉くんが来て「ここ、良いですか？」って、私と同じように壁に凭れて座った。

二人、黙って騒ぎの中心に居る櫻井さんと静香さんを見る。

きっと、私も相葉くんもこの先にどんな言葉を聞く事になるのか怖くて

怖くて

怖くて

耳を塞ぎたいのに、それも出来ない。

相葉くんが、私にピッタリと身体を寄せた。

あったかい。

「あー...言うタイミング無くってさ」

櫻井さんが、「参ったな」って恥ずかしそうに笑って静香さんをチラっと見た。

相葉くんが、私の手を握って自分の背中側に回し、繋いだ手を周りから見えないように隠した。