明日の天気の話をしよう 5th【ars】 (ページ26)

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166.30分。ページ26

「明日は、朝から大阪ですか？」
「うん。一応、その予定だけどね。新幹線乗るの、ひっさしぶりだわー」

飛行機じゃないんだなぁ...とか、結構どうでも良い事を考えながらカルピスを飲む。

甘酸っぱい味が、喉を通って行く。

「まぁ、でも今生の別れって訳じゃ無いからさ！」
「え...？」
「ひとまず東京から離れるけど、ずっと戻って来ないって訳じゃ無いし本社へ用があればこっちに出張だしね」
「あ、そっか...」

でも、今までの様に会えなくなるのは間違い無い。

......静香さんとは、ちゃんと会えるのかな...。
彼女にはきっと、会いたいはず。

だけど、それを訊く強さを私は持ってない。

「もしかしたら、何年かしたらまたこっちの桜に戻って来るかもしんないし！その時はよろしくー」
「あー、すいません！その頃の私は、カフェを開いてる予定なんですよー」
「ハハハッ！そっか！実現した時には連絡しろよ？花輪送るから」
「花輪！？普通のお花で良いですって！胡蝶蘭とかぁ」
「胡蝶蘭のどこが普通なんだよ」

二人で笑い合う。

笑えて良かった。

泣いてる姿なんて、見せてたまるか。

「あ...もうこんな時間か...」

櫻井さんが腕時計を見る。

30分なんて、『あっとゆー間』って言うのも違う位に一瞬で

30分、一緒に過ごしてしまったから余計に別れるのが辛くなった気もした。

「ごめんなさい、引き止めちゃって...あの、本社いってらっしゃい！」
「悪いなぁ。あ、車乗ってく？送っ...」
「あー！！大丈夫です！一人で帰れますから！」

きっと『送る』って言ってくれる櫻井さんの言葉を、笑って遮る。

「帰りに寄りたいトコもあるし」
「そっか。じゃあ、気を付けて帰れよ？」
「はい、櫻井さんも運転気を付けて下さいね！」
「ドライバー歴11年ですからー」
「慣れが一番危ないんですよ？」
「はい、気を付けます」

また、笑い合う。

良かった。笑えた。

笑えたから、きっと私はこのまま言える。

「櫻井さん」

私は、何も後悔してません。

よく言うでしょ？

こんな想いをする位なら、いっそ出逢わなければ良かった...なんて。

だけど、私は少しもそんな事思わないんです。

貴方を好きになって良かったって、心から思うんです。

「私、櫻井さんに出逢えて良かったです！ありがとうございました！」

貴方を想ってた時間は、私にとって幸せな時間でした。

ペコリと頭を下げて、涙を堪えて顔を上げたら櫻井さんが「ありがと」って微笑んだ。