明日の天気の話をしよう 5th【ars】 (ページ20)

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160.かき氷。ページ20

「俺はイチゴでー...Aちゃん、何にする？」

壁に『かき氷の味はイチゴ、メロン、レモン、ブルーハワイ、練乳』って手書きの紙が貼ってある。

「私、練乳で！」
「良いね、練乳」

潤さんが、形の良い唇をキュっと上げた。

ガリガリガリと氷を削る音がする。

懐かしい音。
昔は家でお母さんがよく作ってくれてた。

「はい、お待ちどうさま。イチゴと、練乳ね」
「ありがと、おばちゃん」
「ありがとうございます」

コトン、コトン、とちゃぶ台に置かれるピンクの氷と白い氷。

ガラスの器に、水滴が流れる。

潤さんがシャクっと音を立てて氷にスプーンを挿し込んだ。

私も練乳が全体に行き渡るように、シャクシャク混ぜる。

「Aちゃん、最近どう？」
「え？」
「何か久し振りだから、元気してたかなー？と思って」
「あー...潤さんは、元気でしたか？」
「お、質問返しか。さては、何かあったな？」

...鋭い...行く行くは刑事さんにでもなるんだろうか。

似合う。トレンチコートとか着ちゃって。
あんパンと牛乳持って、張り込みしちゃって。
あ、違うな。何かもっとスタイリッシュ。

松田優作みたいな。...あ、あれ探偵か。

「どうしたー？お巡りさんが聞いてやるよ？」
「あー...ちょっと、色々あって」
「色々。若いもんなぁ、色々あるよなぁ」

潤さんの口に、赤い氷が運ばれる。

冷たかったのか、ちょっとだけ眉間に皺。

「潤さん、例えば...なんですけどね」
「うん。例えば、何？」
「例えば、好きだった人が自分の側から居なくなるとします」

うん、と潤さんが真剣な顔で頷く。

「想い、伝えますか？」
「もちろん。そのままサヨナラは出来ないよ」
「もし、その人に恋人が居ても...ですか？」
「え...あー...それはちょっと考えるな...。奪うって事も考えるけど、それが相手の幸せかは分かんないもんなぁ」

んー...って肘をついて、手の甲に顎を乗せてる。

「難しいね。どっちが正しいとか無いよな、こーゆー事って。考えるのしんどいでしょ？」
「考えるってゆーか...まぁ、伝えないって決めたんですけどね」
「あ、例え話じゃなかったの？」
「......あっ！！」

ニヤリとする潤さんに「誘導尋問だ！」って言うと「お巡りさんを舐めて貰ったら困るよー？」なんて言われた。

「何てね。最初からAちゃんの事なんだろうなって分かってたよ」
「え...！？」

潤さんは、「嘘、下手」って笑った。