千夜一夜に降る君と描く物語【ars M.A】 (ページ5)

今日:11 hit、昨日:0 hit、合計:377,169 hit

なページ5

『自称・魔人』は、ニコニコと微笑んでる。

キューティクル輝くサラリとした髪

黒い目

高い鼻

肉厚な唇

長い手脚に、個性的な声。

こんなの私の知ってる魔人じゃない。

ってゆーか、魔人って何。
本気で言ってんの？

ってゆーか、ってゆーか、ランプの魔人って...

「上半身裸で薄っぺらい布を腰に巻き付けてるんじゃないの？」
「あれ？ご主人様、そーゆーのが好きだった？」
「好きじゃないわ」

好きとか嫌いじゃなくて、『ランプの魔人』のイメージよ。
一般的なイメージよ。

だって、私の目の前に居る『自称・魔人』は

黒いスーツ姿。

どうやったらこのスーツ姿の男を、「あー！ランプの魔人だぁ！」なんて信じられるんだろう。

あ、...この人もしかして酔っ払いのサラリーマン？
飲み会の帰りにフラフラここに辿り着いた？

あー、酔っ払いなら説明がつくわー。
このふざけた発言も。

どっから部屋に入って来たのかは説明つかないけど、それはまぁ...酔っ払いは何でも出来る！って事で。

「ご主人様がそーゆーのが良いなら、腰に布だけ巻き付けるよ！」
「酔っ払いのサラリーマン、速やかにお帰り下さい」
「サラリーさん？僕、サラリーさんじゃないってば」

誰だよ、サラリーさん。

あ、この人ホスト？スーツだけどノーネクタイだし、そう言えば見た目もチャラっとしてる。
あー、チャラっとしてる！
女ウケ良さそうな顔してる！

「私からはどれだけ頑張っても儲けなんて出ませんよ」
「え？ご主人様、何言ってんの？」
「シャンパンタワーとかしてあげられない。ナンバーワンにしてあげられない」
「ナンバーさん？」

何の話？って雰囲気で目をクリンと開くその男。

「ご主人様、こーゆーのが好きって情報が来てたんだけどなぁ...」
「...え？」
「魔人になる時はね？ご主人様の好きな服装で、って決められてるの」
「好き...な...」

確かに私はスーツ男子が好き。
スーツってだけで、目で追ってしまう位に好き。

だけど、何故それをこのホストが知ってる！？

「ねぇ、ホントに何なの！？怖い！」
「怖くないってー」
「怖い！知らない人、怖い！」
「知らなくないでしょ？ランプの魔人だってばー」
「やだ！怖い！」

軽くパニックになった私は、玄関まで男の背中を力いっぱい押して行く。

「待って待って！じゃあ、僕が魔法使えば信じる？」
「まっ...！？」

振り返った男は、パチンと指を鳴らし

「ま、見ててよ」

人懐こく、微笑んだ。